乙女ゲームと青春演劇物語の見事な両立
『東京喰種』などで有名な漫画家、石田スイがキャラクターデザインやシナリオを手掛けているアドベンチャーゲーム。
舞台となるのは、男子生徒のみでミュージカルの勉強を行うユニヴェール歌劇学校。そこに憧れを持つ主人公・立花希佐(下の名前のみ変更可能)は、女性であることから入学を諦めていた。しかし、校長から女性であることを隠すことを条件に、入学試験を受けても良いと提案される。無事試験に合格し、同期や先輩の男子生徒たちと共に公演に向けて切磋琢磨していく……というストーリーである。
形式としてはいわゆる「乙女ゲーム」と呼ばれるものに近い。日常パートで攻略対象となる6人の男子生徒と対応したパラメータ(歌唱力・表現力など)を上げ、休日にその生徒のもとに通い好感度を上げていく。双方が一定を超えたら個別イベントが解放される、という流れだ。
しかし、それ以外に年5回ある公演に向けてクラス全体で取り組むという大きなストーリーラインが読んでいて夢中になる。各登場人物が壁にぶつかり、時に衝突しながらも成長していく姿は青春そのもの。それを際立たせているのが出演声優の演技だ。同じセリフでも公演の練習をしているときと公演本番とでテイストが全く違うものになっているものも多く、ぐいぐいと引き込まれていく。
公演パートでは実際の劇の流れに沿って登場キャラクターが演じていくのだが、時折「演劇世界」と「現実世界」とが切り替わる場面がある。公演中のトラブルや演者の心情に関わるときに挿入されるのだが、このタイミングが絶妙。演じられるキャラクターは演者の状況とリンクする場面が多く、公演中に揺さぶられる心情を効果的に表している。また、公演中の歌曲のタイミングで音楽ゲームをするパートがあるのだが、ここで使われる楽曲のクオリティも総じて高い。
通常の「乙女ゲーム」ではこれと決めた人物以外のキャラクターの影は薄くなりがちだが、このゲームでは違う。もちろん、攻略ルートに進んでいくとその人物の心理描写の掘り下げはなされる。しかし、主人公を含めた全員が歌劇を完成させるための「歯車」という表現が使われている。どのルートを選んでも全員で一丸となって一つの目標に突き進んでいく彼らの姿に、次第に虜になっていくのだ。