そして船は行く

そして船は行くのレビュー・評価・感想

そして船は行く
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夢幻的な映像美の限りを尽くした名画

映画『そして船は行く』は、イタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニ後期の傑作です。
この作品は、1983年に公開されました。フェリーニの作品のなかでも集大成と言ってよい映画です。
舞台は亡くなった或るオペラ歌手を追悼するために企画された豪華客船で、作品はそこに乗り組んだ貴族、亡命中の難民、芸術家などのさまざまな人物の言動を描いた群像劇となっています。
映画の時代は第一次世界大戦前夜で、欧州を襲った悲劇が起きる直前らしい緊迫した雰囲気が伝わってくる名画です。
映画の見どころは乗客の個性を描き分ける見事な演出や、フェリーニ独特の非常にデフォルメされた人物たちの言動の面白さでしょうね!彼ら彼女たちの演技はとてもコミカルで、いかにもフェリーニらしくて、見る者を笑わせてくれます。
さらに言えば、フェリーニが多くの名画を撮ったチネチッタに作られた巨大なセットの華麗な美術的な美しさが、この映画の大きな魅力となっていると思います。
この作品は別にフェリーニがあるメッセージを託したなどといった浅薄な映画ではありません。そうではなくて、ひたすら映像美を追求しつつ、時代の激動に翻弄される人間たちを描いた作品なのです。簡単にお里が知れるような詰まらない作品をフェリーニは撮りませんでした。ただいわゆる批判精神を持って人間を描写したのですね。