ドクター・デスの遺産ーBLACK FILEー

ドクター・デスの遺産ーBLACK FILEーのレビュー・評価・感想

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ドクター・デスの遺産ーBLACK FILEー
5

ドクター・デスの負の遺産

ドクターです。
…じゃなくて、ドクター・デス。
130人もの末期患者を安楽死させ、1999年には殺人罪を言い渡された実在のアメリカ人医師、ジャック・ケヴォーキアン。(その後も2011年に亡くなるまで安楽死や尊厳死について啓蒙活動を続けたという)
本作はその“ドクター・デス”をモデルにし、日本では違法とされている安楽死を題材にしたクライム・サスペンス小説を映画化。

末期患者を安楽死させる連続殺人が、一件の少年の通報を機に発覚。犯人は“ドクター・デス”と名乗る謎の人物。
警視庁のコンビ、熱血漢型の犬養と冷静沈着型の高千穂は犯人を追うが…。

安楽死という難題にエンタメとして挑戦したのは意欲的。
劇中の末期患者はもがき苦しんでいる。もう助からないかもしれない。助かる見込みもないかもしれない。
家族も精神的にも身体的にも限界。でも何より、家族が苦しむ姿をこれ以上見たくない。
両者が希望するなら、いっそ…。
安楽死の是非は、人が生きていく上で永遠の議論だろう。
そこに現れた“ドクター・デス”。
確かに安らかな死を与えた。
が、日本など容認されてない国では違法だ。
さらに本作の場合、犯人の動機。
間違えてはいけない。現実の安楽死は議論の余地は充分あるが、作品の犯人の動機はただの異常な快楽殺人。
「安楽死させた患者の死顔は美しい」なんて、キチ○イの発想でしかない。

メインはバディ刑事ムービー。
姿の見えぬ犯人を追う捜査劇であり、犯人捜しのミステリー。
犬養には腎臓を患い入院している娘がおり、ドクター・デスが接触。言葉巧みに誘導し、安楽死を希望させる…。
犬養はドクター・デスを捕まえ、娘を救う事が出来るのか…?

やさぐれ感漂う綾野剛とクールな北川景子のコンビネーション。
恋愛感情は排し、一貫して上司部下のバディなのがいい。
当然伏せるが、犯人役の不敵さは見事。

一級の社会派×エンタメの邦画サスペンス!
…にならなかったデス。
色々持ち上げといて、スミマセン…。

題材はいい。でも、重厚さや深みに今一つ欠けた。先述したのはあくまで私の考え。
要所要所のサスペンスもハラハラドキドキ盛り上がらない。何と言うか、邦画サスペンスのしょぼさ、あるあるさ。
犬養と高千穂は“警視庁No.1コンビ”と謳われているが、あまりそれを感じない。
ラスト、何で犬養は単独で犯人の元に向かったの? お前に危険は犯せない…かもしれないけど、バディだし、二人なら犯人逮捕はより確実なのでは…??
致命的なのは、ミステリーの醍醐味の無さ。
ドクター・デスは何者? やはり本作はこれに尽きると思う。
捜査を進めると徐々に浮かび上がってくる犯人像。白髪の老医師。
遺族の証言シーンでその医師が声を発し、もう特徴ある声ですぐ分かっちゃう! さらにその後、お顔出し!
え? もう犯人発覚じゃないよね…?
勿論真犯人は居るが、怪しさ満点でこれもすぐ分かっちゃう。
ドラマ性も深み無く、サスペンスとしてもしょぼく、ミステリーとしても致命的。
公開時から厳しい声が多いのは知っていたが、納得。
ヒューマン・ドラマには定評ある深川栄洋だが(と言うかヒューマン・ドラマでも当たり外れ激しいが)、サスペンス/ミステリー系は向かないね。

もっと巧くやれば第一級の社会派×エンタメ・サスペンス/ミステリーになった筈…。
それか、原作がシリーズ小説のようなので、TVドラマでやれば人気シリーズになったかもしれない筈…。
いずれにしても残念デス。

最後に僭越ながら、再び安楽死についての私の考え。
私もこれまで両親、母方の祖父(祖母は私が赤ん坊の頃に他界)、父方の祖父母を見送ってきた。
中には見るのも辛かった時もあった。
特に、父。
あんなに元気だった父が胃ガンになり、痛々しいほど痩せ細り…。
でもその時、劇中のようなヘンな迷いなど一切無かった。
父も苦しかったろうし、私ら家族も毎日見舞いに行きながら、いつ来てもおかしくない“その時”にビクビクしながらも。
愛する家族をずっと苦しませるのは酷だ。
だからと言って、安らかの言葉を建前にこちらの都合で逝かせるのも酷だ。
苦しさや気持ちは少なからず分かる。
でも、同じ酷なら…誰かの手を借りず、命の限り、最期の時まで一緒に。
私はそう望む。