狼たちの午後

狼たちの午後のレビュー・評価・感想

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狼たちの午後
8

チンピラたちの銀行強盗劇をドラマチックに描いた快作

『狼たちの午後』は1975年公開の米国の犯罪を扱った伝記映画で、監督はシドニー・ルメット、製作はマーティン・ブレグマンとマーティン・エルファンドです。
出演はアル・パチーノ、ジョン・カゼール、ジェイムズ・ブロデリック、チャールズ・ダーニング。
脚本はフランク・ピアソンによって執筆され、その原案は『ライフ』誌に掲載されたP・F・クルーゲとトマス・ムーアが書いた記事「The Boys in the Bank」でした。
この映画と原案は、ブルックリンのチェイス・マンハッタン銀行支店でのジョン・ヴォイトヴィッツとサルバトーレ・ナタリーによる強盗・人質事件をモデルにしています。
エウファンドはブレグマンに『ライフ』誌記事について注意を促し、彼ら製作者2人は記事の著作権をクリアするためにワーナーブラザーズ映画社と交渉しました。
ピアソンが事件の調査を行い、ヴォイトヴィッツによる強奪事件を中心に据えた脚本を書き上げました。
映画のキャスティングはルメットとパチーノによって進められて、パチーノはオフブロードウェイの舞台仲間を共演者に推薦しました。
撮影は1974年の9月から11月にかけて行われ、製作は予定を3週間前倒して完了しました。
先ずは社会派監督の巨匠シドニー・ルメットの手堅い、しかもドキュメンタリータッチの乾いた演出がド派手なアクション映画とは一線を画する仕上がりを生み出しています。
監督の手腕が要求する演技力を発揮しているのがアル・パチーノ。
舞台劇の本場ニューヨークで鍛え上げられた抜群の演技力がやむを得ない事情で銀行強盗に手を染めてしまうヴォイトヴィッツの虚しさを遺憾無く表現しきっていることに改めて注目です。
実際、ヴォイトヴィッツは親友の性転換手術の高額な医療費を獲得するために強盗事件を起こしたのでした。
LGBTが社会的にまだ認知されていない50年前の時代に。
本作は時代背景と人物描写の濃密さを堪能できる味わいの深い一作です。