10
江戸医大に生きる下級武士の誇り高き生き様
日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した作品でもある。日本で近年作られる時代劇に人気があるというのは、いま私たちが生活しているサラリーマン社会が江戸時代の武士たちの社会と非常に似たものがあるということ、ひいては日本の社会構造というのは江戸時代からさほど変わっていないのではないかということを気付かされる。出世争いの競争社会、上司と部下の関係、無理難題な仕事を言い付けられて藩命、社命であるから断れずにその中で誇り高く生き、また迫りくる運命に立ち向かっていく、多くの人々の共感を呼ぶと思う。組織の中での個人の幸せ、好きな人と結ばれ家庭を持ち子供を育てることの意味をしみじみ考えてしまった。世間一般で言われている人生の成功者の定義が、本当なのだろうかと疑いたくなる。たそがれ清兵衛の生き方でさえラストシーンで娘役の岸恵子のコメントにもあったが、「出世ではない道を選んだ父の生き方に、父に誇りを持っています」と。自分の子供からそう言われるということが、働くお父さんたちの何よりの誉め言葉ではないだろうか。むしろこういう生き方を選ぶべきなのではないのだろうか。一人の男の生きざまに感動した時、ラストシーンで井上陽水の決められたリズムが心地よく流れる。