右側に気をつけろ

右側に気をつけろのレビュー・評価・感想

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右側に気をつけろ
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有名な文学作品からの引用が頻出する、ファンタジー的な構成の珠玉の作品『右側に気をつけろ』

『右側に気をつけろ』は1987年の映画で、監督・脚本・主演はスイス/フランスの映画製作者ジャン-リュック・ゴダールです。
ボクシング用語では「右側に気をつけろ」はトレーナーがボクサーにかける言葉です。ゴダール映画のタイトルはもちろんジャック・タチの短編映画『左側に気をつけろ』を参照しています。ゴダールがこの作品を「役者、カメラ、テープレコーダーのためのファンタジー」と評したように、映画は複数のスケッチから構成されていて、そのスケッチの中で役者はロック音楽をバックにして現実的な、あるいは今日的な役を演じています。
映画は3部構成で、それぞれのセクションが相互に参照し合っていて、一群の人々が自分の居場所を探しているという設定です。
第1部では、あるグループの音楽家たちが理想のハーモニー、適切な音を模索しています。
第2部では、1人の男が理想の社会を求めているのですが、自分が誤っているのではと懐疑しています。
第3部では、ある旅行者らが自分たちの行先を探しています。あたかも過ぎ去りし日々にユリシーズがそうであったかのように。
物語の主人公は、いうまでもなく、ゴダールの演じる「白痴公爵殿下」ですが、これはその「殿下」が手に取っているドストエフスキーの『白痴』の主人公ムシュイキン公爵を下敷きにして造形された人物像です。