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何が起きたのかわかった時の衝撃
本作の監督・脚本を務めるのは、鬼才チャーリー・カウフマン。彼の名前を知らなくても「マルコヴィッチの穴」や「エターナル・サンシャイン」と言う作品名を聞けば、ピンと来る人も多いと思います。これまでの代表作と同様に、この「もう終わりにしよう。」も、一筋縄ではいかない難解さと、何が起きたのか薄っすら気づいた時の衝撃は、凄まじいものがあります。
お話の始まりは地味なもので、恋人との別れを意識している女性とその恋人(男性)が、二人で男性の実家に車で向かう……というものです。映画の多くの時間が、この悪天候の雪の降る中を、なんとなく気まずい車中で二人が会話する描写に使われています。この会話、よく聞いていると少しおかしなことがわかります。女性が何か別れを意識したことを深く考えようとすると、ちょうどいいタイミングで男性が話しかけて来たり、映画についてあまり知らないはずの女性が、少し経つと急に映画好きな男性と互角なまでの映画評論を始めたり……。
この違和感が、男性の実家を訪れてからも倍増していきます。まるで時間軸が狂ったように、年老いたり若返ったりする男性の両親。女性が書いたはずの詩が男性の部屋に置いてあったり、女性が描いたはずの絵が置かれていたり……。観客はやがて、これが単に別れを決意した恋人同士の話ではないと気づくのですが、その答えがわかるのは、映画の中ではなく、見終わった後だというのが、気持ちよくぞっとできる、面白い映画です。