夢の温度

夢の温度のレビュー・評価・感想

夢の温度
8

小さな町が舞台の、雰囲気ある作品

作家さんたちが都内に住んでることが多いからなのか、漫画の舞台となるのは東京であることが非常に多い気がします。
そんな中で、東京の大都会ではない、どこかの小さな町の話を読むのは新鮮で、のんびりとした情緒があり、そういう漫画は結構貴重だと思います。
この『夢の温度』の舞台も、背景に山が見えるような小さい町です。
南Q太の書き込みすぎないタッチが、町の雰囲気とよく合っていて、シーンと静まった空気の中で、なんだか時間がゆっくり流れているような感覚になりました。
1~4巻まで発行されているのですが、巻ごとに「冬」、「夏祭り」、「はる」、「あき」と季節が振り分けられており、四季折々のエピソードとなっているのも風情があります。
季節にからめて、ストーリーの中心となる兄妹の名前は「あき」と「はる」。
「つまらない町」と描写される舞台にふさわしく、登場人物に特別な人はいません。「あぁ、こういう人いる」と思う人物ばかりで、その心情も理解しやすいものです。
ただ、高校2年の兄のあきの格好良さはちょっと格別で、目が釘づけになってしまいました。
あきは「S高の竹田」と噂されるイケメンなのですが、作者が描く現実離れしていない描写はやけにリアルで、こんな人が現実にいたら…こんな人と恋に落ちたら…と本気で思わざるを得ませんでした。
平凡な町の何気ない日常の中で、誰かを好きになったりして成長していく人々。
そんな光景がいい味わいで描かれています。綺麗ごとだけじゃない、現実の醜さも捉えられているところが、大判コミックらしくて好きです。
年月が経ってもまた読み返したくなる作品です。