うたかたの日々

うたかたの日々のレビュー・評価・感想

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うたかたの日々
8

美しくも奇妙なフランス文学と岡崎京子漫画の相性が抜群!

フランスの小説を岡崎京子が漫画化。
悪夢のようだけど美しいストーリーが、岡崎京子の作風とマッチしています。ラフな線とファッションセンスの良さが上手いことマッチしていて、岡崎京子作品のエッセンスとも通じるところのある原作の持ち味が大いに生かされていると思います。

愛を求める主人公が素敵なパートナーと出会い、華々しく結婚しますが、パートナーの女性は肺から花が生えてしまうという、美しくも恐ろしい難病に。裕福な暮らしをしていた二人の生活には影がさしていきます。
働かなくても遊んでいられるという環境、愛こそがすべてと言えるような若者達、そしてそこに降りかかる悲劇。こういったプロットが非常にヨーロッパらしいというか、フランスの原作ならではだなと思います。日々の退屈な仕事とか、学校とか、そういう日常的なものは全部すっとばされていて、現代の話なのに、まるでおとぎ話のように浮世離れしている世界観には圧倒されました。ストーリーに出てくるのは、よくわからない奇妙で不思議なエピソードばかりなのですが、それが文学的な美しさを作り出すことに成功しており、原作者の発想力、そしてそれを画にした岡崎京子の腕前に感嘆します。

とかく効率性や、実利が求められる現代において、このように芸術性や、文学的美しさにのみ焦点をあてた作品が、人々の心に働きかける役割は大きいのではないでしょうか。何か目的があってそれを攻略するとか、困難を乗り越えて夢を叶えるとか、そういう筋道の通ったストーリーの作品と比べて、この『うたかたの日々』は、全く理不尽で、説明のつかない、何の教訓もないストーリーです。しかし、だからこそ、この独創的な世界観に浸ることが心地良く感じられるような気がします。時間の流れが止まり、心の奥行きが広がるような感覚。前へ前へと発展していく物語と違って、妻の病状とともに次第に衰退していく物語であることも関係しているのでしょう。スピード重視の社会で追い立てられるように暮らしている私達に、別次元の価値観を示しています。