未来戦隊タイムレンジャー

未来戦隊タイムレンジャーのレビュー・評価・感想

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未来戦隊タイムレンジャー
9

未熟な若者の青春群像を描いた傑作

戦隊シリーズ24作目となる本作は『星獣戦隊ギンガマン』という見事な筆致の傑作を放ち、更に前作『救急戦隊ゴーゴーファイブ』でも数々の名作回を描いてきた小林靖子氏二本目のメインライター戦隊です。
本作のモチーフは「時間と歴史」ですが、これらはどちらかと言えば作品全体を構成しているSFガジェットに過ぎず、メインテーマはその時間と歴史という大きな運命に抗いながらそれぞれがそれぞれの「明日」を探していく青春群像劇です。故に本作は従来の戦隊シリーズとはまるで戦いの意味が違っており、他の戦隊が「正義の味方が悪の組織を倒し大切な物を守る」という構図であるのに対して、本作は「それぞれの「明日」を変えるために悪の組織と戦う」という構図になっています。
つまり戦いそのものではなく、戦いを通して各自が自身の内面と向き合うものです。よって敵組織のロンダーズファミリーを含め本作は現実世界に近い善悪が相対化された大人の世界です。本作において絶対の正しさを持つ者は誰一人居ません。主人公の現代人であるタイムレッド・浅見竜也と4人の未来人達は決してプロフェッショナルではなくどこか内面で「弱さ」を抱えており、またそれについて内々で処理出来るほどの判断力、正しさを持ちません。竜也と一年間反目することになる父や空手のライバルであった滝沢直人なども竜也の欠点を真っ向から指摘し横っ面を張り倒す存在ではありますが、その彼らですら時に迷い時に運命に打ちのめされそうになります。
また唯一ロンダーズファミリーとの因縁を持つタイムピンク・ユウリもリーダーではあるものの周りへの気遣い・気配りは基本出来ずコミュニケーション能力にも問題があり、一家を殺したドルネロへの復讐も不完全燃焼のまま完遂出来ずに終わってしまいます。その他にもオシリス症候群という不治の病を抱えたアヤセ、生まれ故郷が既になく地球を第二の故郷としているシオン、そして現代人のホナミと恋に落ち、挙げ句の果てに子供を孕ませるドモンなどいずれも世間的に見れば「少数派」と呼ばれるような人達です。
そして、これが一番の衝撃ですが、終盤でタイムレンジャー(というか未来人四人)の宿敵であり物語の黒幕であったリュウヤ隊長も決して正しい人物ではなく、彼は彼で歴史修正を行うことで正しい歴史と間違った歴史の二種類のどちらを選んでも避けられない死の運命から逃れる為に生きているエゴイストであることが発覚します。しかし、それを批判する権利は誰にもありません。何故ならばリュウヤ隊長もタイムレンジャーも「明日を変える」為に動く者達であることに変わりはないからです。
ヒーローとしては不完全な彼らが一年を通して「明日を探す」という共通の目的の下竜也を中心に結束を育み、その末に待ち受ける大消滅という絶対避けられない運命に抗い、それを乗り越えて新しい未来を作り出していくという壮大な物語は『鳥人戦隊ジェットマン』の革命作を受け、様々な試行錯誤と変化を繰り返してきた90年代戦隊シリーズの総括、そして21世紀以降戦隊シリーズへの道を切り開いた一作としてよく出来ています。ただ、子供向け娯楽としてのエンタメ性はあまりないのでその辺が好みが別れる所でしょうが、見て損はない名品です。