ビタースイートな魅力。情緒豊かなR&Bの歌姫
2002年にリリースされたエイメリーの"Why Don't We Fall In Love"を聴いたとき、その楽曲の美しさにすっかり魅せられ、夢中になった記憶があります。
流れるようにストリングス、サックス、ピアノの音が鳴り、絡み合うセンセーショナルなイントロに、溜め息混じりなエイメリーの声が乗り、波のように盛り上がったり引いたりしながら進んでいく曲調に感動してしまったのです。
エイメリーは2000年代初期に量産されていたR&Bアイドルのひとりという立ち位置だったように思いますが、他の新人女性シンガーにはない情緒的な魅力がありました。
ただ華やかで煌びやかなだけではない、クールなインテリジェンスを感じさせるものがあったのです。
そこには、エイメリーにジャズの素養があることが関係しているのかもしれません。
歌唱においても、サウンドにおいても、ジャズの渋めな味つけがされているところにドラマチックな感触が生まれています。
そして、その渋さがあるからこそ、R&B特有の甘く華麗なアレンジが際立って聞こえるのです。
陰と陽のバランス感覚が抜群なのですね。
ただ攻めるだけではない、絶妙なサジ加減を持っているとも言えます。
このことは"Why Don't We Fall In Love"がトップを飾ったデビューアルバム『All I Have』全体を通じて言えることで、デビューにして素晴らしい名盤を生み出したのですが、セカンドアルバム『Touch』となると話が変わってきます。
あれだけ出るところと押さえるところのツボをわきまえていたファーストアルバムが嘘のように、エイメリーは攻めに徹してしまうのです。
歌唱にもそのバランスを崩した様子が表れていてがっかりしました。
R&B戦国時代においてはそうするしかなかったのかもしれません。
そのかいあってか、シングルカットされた"1 Thing"はヒットしています。
そんな「らしさ」を失ったエイメリーには興味をなくしていたのですが、2018年のシングル曲"Curious"で、またしても心を鷲掴みにされました。
ここに現れていたのは、かつてのエイメリーが描いたものがエレクトロな音に進化した、極上の世界です。
"Curious"が収録されているアルバム『4AM Mulholland』も、全体を通して美しい情緒に満たされています。
やはりエイメリーはR&B界になくてはならない存在なのだと再認識。
まさか彼女がEDMとトラップにまみれた2010年代のR&Bから、感性溢れる名作を作り上げるとは思っていなかったのでうれしい驚きでした。
拍手を送りたいです。