鳥人戦隊ジェットマン

鳥人戦隊ジェットマンのレビュー・評価・感想

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鳥人戦隊ジェットマン
10

戦隊シリーズにおける「機動戦士ガンダム」

戦隊シリーズを語る上で、この作品は絶対に避けて通ることは出来ません。実際戦隊ファンでこの作品を知らないという人は居ないでしょう。本作はシリーズにおける大きな革命作、ロボットアニメにおける『機動戦士ガンダム』のような位置付けの作品であり、それまでの戦隊シリーズ並びに昭和時代の東映ヒーローものの常識を悉く打ち破る作品となりました。
本作はバラエティなどでも「戦うトレンディドラマ」と言う名前のように、兎に角登場人物が年がら年中恋愛沙汰を中心にした細かな人間関係を盛り込んでおり、今見直すと本当に昼ドラもビックリなレベルの修羅場、ドロドロが盛り込まれております。登場人物も設定が「地球防衛軍スカイフォースに所属する正規軍人と一般人四人」という、それまでの軍人戦隊の設定に一般人が偶然入ってくるというカウンターの設定を盛り込んだこと、またそこから描かれる各登場人物の生々しい人としての弱さ、コンプレックス、大義名分では誤魔化しきれない奥底にある感情とこれ程ないまでに向き合っています。
一見するとこれらは「ふざけている」と思われがちですが、しかし本作の目論見は決してこのような生々しい昼ドラを描くことそれ自体にあるのではなく、その細かな人間ドラマの描写を通してそれまで「虚像」であった「ヒーロー」の仮面をボロボロに剥がして生身の人間性を浮き彫りにし、その上でそれぞれが「真のヒーローになる」というドラマを一年間かけて描くことにあったのです。
故に本作は前作「ファイブマン」までの戦隊シリーズが頑として崩さなかった「正義」「勇気」「愛」「友情」といった、ともすれば惹句として使われがちな安易なヒーローものの正義の理屈に疑問を呈し、それらをバラバラに崩し解体した上で、「何故戦わなければいけないのか?」を次元船団バイラムという未知の敵との戦いの中でリアリティをもって突き詰めたものとなっているのです。だから「トレンディドラマ」それ自体は決して作品の本質ではなくあくまで手段に過ぎず、その手段を用いて改めて戦隊シリーズの中における「正義」、そして「愛」の形を卑近な人間ドラマの観点から突き詰めたものとなっています。
そしてそれ故にこそ本作の主人公・天堂竜がその肉体面の強さで覆い隠している内面の弱々しさ、そして従来の「正義」を鼻白んで「人間なんて滅んだ方が良い」だなどと安易に口走ってしまうアンチヒーローの結城凱という二人の男のぶつかり合いにはやきもきさせられ、またそんな二人を振り回し、時に振り回され、しかしその中で竜を心から愛し救い出した香という三人を中心にしたドラマは見応えがあり、その三者を通してジェットマンが「弱いヒーロー」から「強いヒーロー」へ変わり、またそれをもってただの「虚像」から「現実」の存在になったヒーローの描写、存在が以後のシリーズに作風の幅と自由度の高さを与えてくれた名品です。好きな人も嫌いな人も是非一度は見てみてください。