勇者エクスカイザー

勇者エクスカイザーのレビュー・評価・感想

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勇者エクスカイザー
10

大切な「宝」を思い出す物語

言わずと知れた勇者シリーズの記念すべき第一作目にして、1990年という平成時代の始まりを象徴する新しい子供向けロボアニメの傑作です。
本作はいわゆる「機動戦士ガンダム」以降80年代に連綿と続いてきた「リアルロボットアニメ」の歴史から一転し、またかつての「マジンガーZ」「ゲッターロボ」のような70年代のスーパーロボットアニメに先祖帰りしたとさえ言えます。しかし、その舞台設定や物語として描かれる本質は90年代の平成らしいスタンダードへ切り替わっており、その本質を丁寧に見極めながら全く新しい形に解体・再生がなされています。
その中でも特に大きな特徴が本作の戦いが70年代ロボアニメの「地球征服」でもなければ、80年代の「国家同士の正義の対立」というものでもなく、「お宝争奪戦」にあるということです。つまり、従来のロボアニメからは大きく離れた目的であり、これは敵組織が宇宙海賊ガイスターという、決して大きな組織ではない少数精鋭のドラマに絞っており、かつ主人公の日常描写もより平成に近い平和なバブル期以降の現代日本になっており、その舞台設定からして大きく変化しています。
また物語の主軸も、その宇宙海賊ガイスターと彼らを逮捕せんと地球にやって来た宇宙警察カイザーズとの戦いというロボットアニメのスタンダードを取りつつ、その中で主人公の星川コウタとエクスカイザーの心の交流を通してお互いにとって大切な「宝」を思い出し、取り戻す物語となっています。これは正に70年代〜80年代まで続いた高度経済成長期とその終焉に伴い、経済的には豊かになったけども精神的に貧しくなった現代日本において、本当に大切な物は何か?それを凄く卑近な視点から見直し、再生させていく物語となっています。
そしてだからこそ、そんな物語の結論が「命は宝」になるのです。最後の最後、ラスボスのダイノガイストは星川コウタを人質に取りますが、そんな彼を救うために一度は武器を捨てたエクスカイザーは「大事なのはコウタだけではない。この宇宙に生きる全ての命が大事なのだ。例えそれが貴様のような悪党の命であってもだ!」と悪の命を否定しません。ここに平成時代になっての大きな変化が生まれ、絶対的規範が崩れて何が正しくて何が間違いなのか?を問う中で、本作が出した解答が「正義の味方も悪の組織も「命」が大事」というのを説得力をもって打ち出した上で、しかしダイノガイストは決して都合のいい駒になることなく、命を散らして死んでいきます。
そんな本作は90年にして既に形骸化して過去の文化になったロボットアニメを再生させたのみならず、それを通して大切な「宝」を思い出す物語であり、今見直しても色褪せない珠玉の逸品です。