くじらびと

くじらびとのレビュー・評価・感想

くじらびと
9

生きていくってこういうことか

インドネシアにある小さな島のラマレラ村で400年前から行われている伝統捕鯨。
生きていくために命懸けで鯨を獲る村人たちの、その生活や文化に迫ったドキュメンタリー映画である。
鯨はいつでも現れるわけではなく、鯨が出なければ村人たちは食べていけない。
だからこそ鯨が出たときには命を懸けて狩りにいく。
本作の撮影中も鯨がなかなか現れず、奇跡的に捕鯨の撮影に成功する。
鯨を突くための銛、小さな船より遥かに大きな鯨。それを体一つで仕留めにいく男、抵抗する鯨、真っ赤に染まる海面…。
息を呑む映像の数々に思わず船酔いしてしまいそうだった。
銛一本で鯨に立ち向かう勇敢な人々と鯨の闘いを、時には水中から撮影している本作は30年以上現地へ通い、村人たちと親交を深めてきた石川凡監督にしか撮れない映像だ。
水道やガスはなく、電気が通るのは夜だけ。作物も育たない島で生きている彼らにとっては鯨は食料以上の存在であり、独特な宗教観も窺い知れる。
同じアジアに我々の生活とはまったく異なる文明があるということに改めて驚かされるとともに、食べること、生きていくことの尊さを思い出した。
本作ではクラウドファンディングで制作費を募り、なんと1300万円も集まったとか。
それだけの価値はあると感じさせる圧巻の映像作品だと感じた。