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移民ファミリーの愛と葛藤の中で揺れ動く女性の成長物語。
NYで物書きを志すアラサー女子ビリーが、従兄弟の結婚式の為に久方ぶりに中国長春(満洲時代の首都)を訪れる。実は結婚式というのは後付けで、ファミリーが集まる本当の理由は、ナイナイ(おばあちゃん)が肺ガンのステージ4だからなのだった。中国ではよっぽどの事が無い限り本人には告知をしないという。アメリカ育ちのビリーにとってそれは誠実ではなく、本人に知らせた方が良いと思っており、周りをハラハラさせてしまう。洋の東西の考え方や習慣の違いに戸惑いながらも、遠く離れていてもよく電話をくれて、個性の強い彼女を可愛がってくれたナイナイに対する気持ちは溢れんばかり。そんな悩めるビリーを、NYクイーンズ出身のコメディエンヌ&ラッパーのオークワフィナ(Awkwafina、「クレイジー・リッチ」でも好演)が繊細かつ真摯に演じており、アジア系俳優初のゴールデングローブ賞、主演女優賞を見事受賞。
ナイナイの長男は若い頃日本へ、次男(ビリーの父親)はアメリカへ渡り、日本育ちの従兄弟はアイコと結婚という設定に、「落地生根」以前、横浜中華街萬珍樓の林兼正さんが何かのインタビューで言っていた、という言葉をふと思い出した。けれどアジアか西洋か、その狭間で生きる事の葛藤というだけでなく、ファミリーの問題はある意味ユニバーサルで、だからこそ単館上映だったのが口コミでじわじわと広がったのに違いない。そして出来たての水餃子や葱油餅が思わず食べたくなってくる作品。