下弦の月

下弦の月

『下弦の月』とは、矢沢あいが『リボン』で連載していた日本の漫画およびそれを原作とした映画作品。自分の居場所を失った女子高生の望月美月は、ある日街でギターを弾いているイギリス人のアダム・ラングと出会う。互いに惹かれ合い、古い洋館で暮らし始める2人。しかし美月は交通事故に遭い、恋人のアダムのこと以外すべての記憶を失ってしまう。ダークかつミステリアスで先の読めない展開が魅力的な作品であり、矢沢作品の中でも異色の傑作といわれる。実写映画では美月役を栗山千明、アダム役をHYDEが務め、話題となった。

下弦の月のレビュー・評価・感想

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下弦の月
9

下弦の月 矢沢あい

『NANA』等で有名な少女漫画家・矢沢あい先生(以下、矢沢先生)の隠れた名作で、矢沢先生の作品の中では異色の、ややSF風な内容です。
事故によって記憶喪失となり、異様で不思議な現象に巻き込まれた主人公の精神的な弱さの葛藤と、その主人公を助けるべく奔走した四人の子供達の冒険譚のようなストーリーが描かれています。
物語の舞台は98~99年。ネットがまださほど主流ではない時代で、数少ない情報量から主人公やその恋人の生い立ちを調べる子供達の懸命さに心が打たれます。
主人公は既存の少女漫画のような完璧なヒロイン像とはかけ離れており、現象の影響で心身共に不安定となり唯一の記憶である恋人を恋しがり泣いてばかりいます。けれども17歳という未熟さ、人が持つ弱さ、現実逃避などリアルな心理描写に共感し、子供達のおかげで精神が成長し本当の意味で救われていく姿に胸が熱くなります。
上で述べたように、矢沢先生や少女漫画の作品としては異色で、読む人によって好みが分かれると思います。それゆえか、連載掲載時のりぼんでは人気があるとは言い難かったらしいです。
ですが、ハマる人にはガッチリとハマり、そこから矢沢先生の他の作品を読み始めたり、しまいには月の形を意識するようになるでしょう(私がそうでした)。