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知るところから始めよう
舞台は1970年代カンボジア。クメールルージュによる独裁体制と大量粛清の時代を生きる親子の物語だ。約4年間で200万人が命を落としたと言われている。知識人に見える全ての人を粛清し、国民から知性を奪い、民主主義や資本主義を真っ向から否定した。愚民政策とも言われる恐ろしい政策だが、果たして現代のわたしたちは主権者としての自覚を持って政治に参加しているだろうか。ハッとさせられる部分がある。
ストーリーとしては大きな起伏はなく、テーマに反してあっさりしている印象も受ける。想像しかできないが、当時はただ耐えることしかできなかったのではないだろうか。あまりにも惨い現実を生き延びるためには、感情を押し殺して、ただひたすら1日1日を生きる。いつの間にか人間的な感情も薄れていってしまうのだろう。その点に関してはよく描かれている。
アニメーション作品ということもあり、実際に行われていた残虐な拷問や殺害のリアリティさには欠ける。だが、むしろ見えないことで、当時の凄惨さがイメージとして浮かび上がってくる。クメールルージュに関する知識が十分にあれば物足りなさを感じるかもしれないが、何も知らない人や、子供でも見ることができる作品だと感じる。まずは知る。そういう意味ではこの作品は入り口を広げてくれる、重要な役割を担っている気がする。