インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌のレビュー・評価・感想

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インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
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コーエン兄弟が描くあるフォーク歌手の物語

主に優れたサスペンス映画で知られるコーエン兄弟による、60年代を舞台とした作品です。
コーエン兄弟の作品にしてはある意味で異色な印象で、(怪しい人物は登場するものの)サスペンスもなければ殺人も起きません。そこに描かれるのはとある売れないフォーク歌手の男のひとときの物語です。目立った大きな出来事は起こりませんが、主人公の身にとって重大な出来事が次々と巻き起こり、最後まで飽きさせません。
全体として静かな印象の作品でありながら、劇中で様々な人たちによって歌われる曲の数々はどれも見事で、面白く聴くことができます。
主人公ルーウィン・デイヴィスは、フォーク歌手としてデビューすることを目指しながら酒場で弾き語りをしていますが生活は苦しく、友人宅で寝泊まりしているような有様でした。ある時、思いがけず友人の飼い猫を抱えてさまようことになるルーウィン。その後も友人や仕事仲間、想いを寄せている女性、そして家族との関わりを経て自分の追い求める道を彼なりに進んでいきます。
やがて憧れの大物プロデューサーとの対面を果たし、自作の曲を聴かせるのでした。ところが、思いがけないその反応に幻滅してしまいます。そして理想と現実との兼ね合いにいよいよ迫られ自分を見失いそうになる主人公でしたが、それでもなお自分の信じる道、自分の好きな道に回帰するかのように、いつもの酒場で自作の曲を演奏し聴衆を楽しませるのでした。
理想と現実のギャップに直面し苦悩する経験は、誰しも少なからずあることでしょう。ルーウィンの姿はそんな私たちのなかにも通じるようであり、最後に自分の帰るべき場所に身を置いて安心している様子に、見ている側も安心するのかも知れません。