1999年の夏休み

1999年の夏休みのレビュー・評価・感想

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1999年の夏休み
10

中盤あたりからどんどん世界観に引き込まれてしまった

1988年。萩尾望都『トーマの心臓』を「少年たち4(5? 6?)人の物語」に思い切り翻案した劇映画。全寮制の男子校の夏休み、帰る家がなくそのまま学校で暮らす3人の元に、転入生を名乗る少年が現れる。それは数ヵ月前死んだはずの少年に瓜二つで…。
大胆不敵な翻案もさることながら、「少年を少女が演じる」こと(+演技の未熟さ)の不思議さ不安定さ、“彼ら”の演劇のようなセリフ回しと表現、柔らかな映像、やさしい幽霊のようにふわりとしたカメラワーク、そして強くまた弱く風と美しい風景が渾然一体となって、まったく何処にもないような、この映画を観る時にしか現出しないような世界がたち現れる。
制作時は「ほんの少し未来」であり、また「世紀末」で、かつ「人類が滅びるかもしれなかった」1999年という時代設定。謎の学習用コンピューター、『鉄男』みたいなレコードプレーヤーに、ありえたかもしれない、しかし来なかったために絶対に訪れない時代と世界の匂いが封入されている。まさに永遠に時計が止まったかのような映画。全くどうかしている。死ぬほどに美しい。
いや、これは傑作でした。
萩尾望都の『トーマの心臓』を大胆に翻案した(らしい)本作なのですが(ちなみに原作は未読)、非常に幻想的で、大胆で、魅力的な映画でした。
翻案でこれだから原作が相当スゴイんだろうなと(ただ僕は漫画は画風で読む人なのであまり萩尾さんの絵が好きでは無いので読むかは微妙なのですが……)。
少年たちを少女が演じるというトリッキーな演出も、個人的にはどハマりでした。非常に素晴らしかったと思う。
最初はふうん、という感じで見ていたんだけど、中盤あたりからどんどん世界観に引き込まれてしまった。
最後若干せっかくの幻想的な雰囲気をかえって壊しているのでは無いかなという部分もあるように思いましたが、それでもまあ、星5つ!!

『生贄のジレンマ』と同じ監督とは思えんな……。