【劇場版おっさんずラブ〜LOVE or DEAD〜】無駄遣いは素晴らしい娯楽である
人気のドラマが映画化する際に、ファンがどうしても気にしてしまうのは「ドラマの空気感が損なわれていないか」という点だ。ドラマでは仕事に一直線、仲間と団結、大きなプロジェクトを成し遂げてハッピーエンド、という男くさい主人公が、劇場版ではいま話題のアイドルが演じるヒロインや売り出し中の若手俳優演じるライバルとラブコメディを繰り広げる……そんな事態になれば目も当てられず、ドラマの映画化には期待しないでおこう……と考えるドラマファンは私以外にも数多く存在するのだろう。
正直この映画の原作であるドラマの大ファンである私は、映画化に素直に喜ぶことはできなかった。この映画化によって、原作の持つ温かい空気、シリアスながらも馬鹿馬鹿しく、涙を誘われながらもどこかコメディカルなあの雰囲気が台無しになってしまうのではないかと。やはり映画とドラマではかけられる予算が違う。劇場版特有の派手な演出が裏目に出たら雰囲気が壊れてしまう。強引なお涙頂戴を見せられたら醒めてしまうのではないか。いろいろなことを考えながら、それでもやっぱり大好きなドラマの続編を見届けたい一心で劇場へと向かった。
結果としてたいへん良かった。このような、映画化に伴いドラマの空気感は壊れてしまうんだろうな、といった類の視聴者心理を逆手にとって、シニカルな笑いに変えていくさまは見事だった。記号としての「映画」の演出をこれでもかと詰め込み、支離滅裂な展開の詰め合わせのパッケージに、大真面目な俳優たちが泣いたり笑ったり愛をささやいたりしている。
この映画は一直線のコメディだ。あのシーンもこのシーンも、シリアスな雰囲気と演者の演技力を起爆剤にしたコメディだったのだ。
しかしきちんと最後はコメディだけでは終わらせない。ドラマ版がそうだったように、恋のはじまりに似たむずがゆさを残してくれる。ドキドキした気持ちと根底に残るばからしさを抱きながらエンドロールを見るのは結構悪くない。
原作と同じく、いわゆる「腐女子」でない方にも見てほしい佳作です。予算、俳優、雰囲気、映画のセオリー。すべてを無駄遣いした娯楽とその先にあるトキメキ。おすすめです。