はじめの一歩 / Hajime no Ippo

『はじめの一歩』とは、ボクシングを題材とした日本の少年漫画作品。作者は森川ジョージで、『週刊少年マガジン』(講談社)にて1989年より連載されている。主人公の幕之内一歩は釣り船屋を営む母子家庭の息子で作中当初は気の弱いいじめられっ子だった。「強いとは何か?」という問いの応えを探すべく、プロボクサーとして、人として成長していく日本のボクシング漫画の代表作の1つ。
作者はボクシングジムのオーナー兼会長という異色のマンガ家であり、作中のキャラクターには実在のボクサーがモデルとなっていたり、プロボクサーのリアルな現実が細やかに描かれていたりするのも人気の理由の1つである。
2012年12月5日発売の週刊少年マガジン2013年1号で連載1000回に迎え、2019年8月時点で単行本累計発行部数9600万部を突破している。2022年3月時点で、単行本の巻数は134巻に到達している。
2000年10月から2002年3月までテレビアニメ第1期が放送され、2009年には第2期、2013年には第3期と続々とアニメ化も実現している。原作を忠実に再現した迫力のある試合シーンで人気を博した。

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はじめの一歩 / Hajime no Ippo
6

主人公の熱意

近年になって多少の劣化は認められるものの、長年マガジンの屋台骨を支え続けているだけのことはある、少年誌にふさわしい極めて良質なスポーツマンガであると思います。

この作品を見ていると、まず練習のシーンの充実に目がいきます。
その練習のシーンも、必殺技の修得のような画面栄えする派手なものは少なく、日々の練習の反復であったり、減量シーンであったり、はっきりいって地味なものばかりです。しかし、その地道な反復作業の「積み重ね」があるからこそ、一歩を初めとするこの作品のボクサーの背中には体の厚みだけではなく、スポーツマンとして引いては一人の人間としての厚みがあります。

「積み重ね」この作品を語る上で欠かせないキーワードではないでしょうか。鮮烈なセリフや描写でキャラ付けを行っていく「グラップラー刃牙」の対極にある作品だと思います。その性質上、掘り進めるキャラは後者に比べると限られてきますが、ちょっとやそっとの揺らぎには動じない芯の強さがこの作品にはあります。

もちろん練習は勝つ為にやるものなのでしょうが、この作品の登場人物達は勝利は最終目的ではなく、勝利の先にあるものを追い求めている様にも感じられます。例えば、自分の正しさの証明であったり、疑問の答え探しであったり、支えてくれる人たちへの恩返しであったり。そして、そんな「濃い」キャラクター達がぶつかるから、この作品の試合は熱く感動するし、登場するボクサーが偶に見せる超人的な粘りや火事場の馬鹿力にも説得力があるんだと思います。彼らにとって試合の勝敗は、単に勝った負けたというだけではないのでしょう。

この作品を見ていると、作者は本当にボクシングが好きなんだなーとしみじみと感じられます。それは、一歩達の対戦相手の描き方に色濃く描かれています。この作品の対戦相手たちの中で、一歩たちの強さや正しさを証明する為の的にされてしまったボクサーは一人もいません。どの対戦相手も一歩たちがそうである様に、きちんとした信念や考え方を持った一人のボクサーというような描き方をされています。もちろんその考え方は様々あって、ヒールのようなボクサーも存在します。しかし、ただ倒される為だけに存在する空っぽの対戦相手というのは皆無といってもいいでしょう。これは作者自身のボクシングという競技そのものやボクサーといった人間に対する誠意そのものだと思います。一見当たり前であるけれど、それが出来ていないスポーツ漫画が世の中にどれだけあるか…。

ただ、板垣の描き方はもう少し考慮の余地があると思います。彼のように1の練習から10の成果を得ることが出来る天才タイプのボクサーは、鴨川ジムには明らかに合っていません。前述の通り、練習で培ったものを試合で出すことによって、試合内容に説得力を生み出していたのに、板垣がやっていることは明らかに練習でやっている以上のものです。だから、板垣の超人技は「日々の練習の賜物」ではなく「過剰な主人公補正(鴨川ジム補正)の結果」という風に映ってしまうのだと思います。最近の一歩や宮田なんかにもこの傾向はついて回っていますが、板垣のそれは特に顕著だと思います。

この作品がボクシングに与えた影響は決して小さくはないでしょう。実際にやるやらないは別にしても、この作品でボクシングに興味を持った人は少なくないと思います。その一点だけでも、この作品は後世に残していくべきスポーツ漫画の金字塔といって差し支えない作品です。