それは青春の忘れ物
誰もが通り過ぎてきた学生時代。
未来がその先にあることがわかっていながらも、‘今’が永遠では無い事を知りながらもそれはどこか朧気で、その毎日がいつまでも続くとでも言いたげに、時に怠惰に時間を掛け流していた。
だからこそ、ふとした瞬間、ふとした時に、過去に大きな忘れ物をしてきてしまった事に気づく瞬間があるかもしれない。
そして朧気だった視界に、はっきりとした世の中の輪郭を形作られて行く。
‘今’が永遠ではなくて、未来がその先にあって、そして過去には決して戻れないという実感と共に。
‘けいおん!’という作品にドラマ性は無くて、また登場人物に絶世の美少女や超能力を持つような者もいない。
そして日常を壊すような事件が起こる訳でもない。
ただその青春時代が穏やかに進んで、囁かに流れるだけ。
だから登場人物達も気付かない。
‘その時間が有限である’という事に。
この物語で唯一彼女達の心理を大きく狼狽えさせるのが、‘卒業’と言うまさに‘未来’という朧気だった存在への入口。
そして視聴者に同時に訪れる‘物語の最終回’という出口。
過去に大きな忘れ物をしてきてしまった事に気づく瞬間。
この作品を見ていると、それが何度も何度も訪れる。
青春時代というかけがえの無い時間を贅沢に使う彼女達を眺めながら、過去の自分と重ねながら。
だけど物語は大団円で終わる。
過去がかけがえの無い時間なら、それは今も、未来も同様だからだと思う。
‘けいおん!’という作品はとても平坦で退屈で、真っ白な物語。
だからこそ、そこにそれを見ているそれぞれの心が浮き上がってくるのかもしれない。