崩れていく日常から破滅へのスピード感
コーエン兄弟による映画「ファーゴ」に着想を得て製作されたテレビドラマ版。Amazonprime、Netflix等配信サイトで視聴できる。
すべてのseasonに共通して言えることは、特別悪人だったわけでも反社会に近いところにいたわけでもない人間がトラブルに巻き込まれ(または起こして)それまでの日常が崩れていく点だ。season1の主人公レスターはうだつの上がらない保険会社員でしかないが、たまたま出会った殺し屋に自分を虐めていた男の話をしてしまい、坂道を転がり落ちるように日常から逸脱していく。season2ではある夫婦が、妻の轢き逃げを隠蔽しようとしたところから。season3では富豪の兄と裕福ではない弟の兄弟の確執から。
主人公たちは悪人ではない。夜床につけば翌朝が間違いなく訪れる平和な場所にいる。しかし、彼等は直接・間接問わず出会ってしまう。反社会的な人々に。
season1では殺し屋。season2ではギャング。season3では犯罪組織。主人公達が憎めない小悪党に変化していく中で、最初から凶悪な立ち位置を示す彼等はとても強く感じられ、魅力的に映る。なにを話しても通じているようで通じていない。なにをしても許されるようで許されない。対峙した時、静かに絶望感が背筋を這い上ってくる不快感。
これだけの強者に対し、物語の結末まで対等に立ち向かおうとしているのは常に警察官だ。彼等は己の推理を信じ、貫く。彼等もまた個性的で、万人受けするキャラクターではないのが面白い。彼等が犯人を追及し続ける信念が果たして正義によるものなのかは、疑問だ。性格と言えるかもしれない。
正義と悪という点で考えると、悩むまでもなく間違いなく主人公たちと反社会勢力のキャラクターたちは悪で警察官は正義だ。最終的には正義側が勝つという点で「ファーゴ」は勧善懲悪ものと言うこともできるだろう。その点は安心して見ていい。しかし個人的には「ファーゴ」の魅力は小市民がハイスピードで転がり落ち、あっという間に殺人を厭わぬメンタルに変容し、自己中心的になれるかという点だと思う。その様はコメディ映画のようで笑ってしまう。不謹慎な表現にはなるが、しみったれたシーンがなくどんどん人が死んでいくのも爽快感がある。話の展開が淀みないのだ。
自分が一番好きなのはseason2で妻が最後のシーンで語る内容だ。女性であれば納得いく台詞であると思う。スピード感、爽快感を経て辿り着く答えになんだか納得いっていまうのだ。
退屈することなく進んでいく決して難しくはない物語。銃撃戦もあり、殺し方にも工夫がある。スカッとしたい時に見て貰いたい作品だ。