国家の非情さ
第二次世界大戦中のナチスドイツの特殊部隊による、イギリス首相チャーチルの誘拐計画についての映画です。計画が失敗したことは史実から分かっているわけで、いかにして失敗したのかを観るという意味では、観る前からどことなく虚しさをおぼえる作品です。
イギリスとアメリカの合作映画であるため、ドイツ人がガンガン英語を喋り、ドイツ人に見えない俳優がドイツ人を演じる点に抵抗を感じますが、1976年公開の作品だし、当時はそういうものだったのでしょう。途中からは作品に引き込まれ、そんなことはどうでもよくなってきます。
あまりに無謀な作戦であるため、作戦の成否が分かる前に、ドイツ側はこの作戦をなかったことにしてしまいます。ヒトラー自らの命令であった証拠は抹消され、作戦の責任者は無実の罪で殺されます。そういう意味でナチスドイツの非情さが描かれるのですが、最後の方で、実はドイツ側が誘拐計画を発案するきっかけとなった、チャーチルが小さな村で休暇を送るという情報自体が、連合軍側が流した偽のものだったことが明かされます。チャーチルの影武者を演じた人も、特殊部隊と戦ったアメリカ軍の兵士も、連合軍側にとっては道具にしか過ぎなかったわけで、ナチスドイツ以上に連合軍は非情だったわけです。そういう意味では、国家というもの全般の非情さを抉り出す作品といえるでしょう。