新九郎、奔る!

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新九郎、奔る!
10

パトレイバーのゆうきまさみが送る新感覚の戦国歴史漫画

伊勢新九郎盛時――またの名を、北条早雲。
戦国大名の先駆けと言われた男の生涯を描いた大河歴史漫画です。

物語は応仁の乱直前の京都から始まります。新九郎の生まれた『伊勢家』は代々足利幕府の高官を務める家柄で、新九郎の伯父・伊勢貞親は権謀術数を用いる腹黒オヤジっぷりを発揮します。また新九郎の父・伊勢盛定は伊勢貞親の手足となって謀略の片棒を担いでいますが、貞親と違ってどこか抜けてて憎めない人物として描かれています。

そんな父と伯父の元で、権力にまつわる汚い面を目の当たりにしながらも新九郎は真っすぐに育ちますが、やがて新九郎自身も足利将軍家にまつわる様々な権力闘争に否応なしに巻き込まれていきます。
世の中の汚さや不条理に悔しい思いを噛みしめながらも、家臣や郎党と言った仲間と力を合わせて難局を乗り切ろうとする新九郎の姿に強く引き込まれていきます。

歴史の表に現れない暗闘を描きながらも、ゆうきまさみの独特なタッチと軽快なコメディ構成のおかげでとても読みやすくなっています。
歴史を題材にした漫画はあまり詳しくない人には馴染みにくい物ですが、現代風の言葉遣いと、随所に散りばめられたブラックジョークのおかげで思わずクスリと笑わされてしまいます。
また、「盛定スクリーン」という解説パートが非常に分かりやすく、歴史に詳しくない人でも充分に理解できるように配慮されています。

足利義政、山名宗全、細川勝元など、歴史の教科書で見た覚えのある人物がそれぞれ個性的で魅力的に描かれており、歴史ファンならずとも一気読みしてしまうこと請け合いです。
しかも、最新の歴史研究によって提唱された新説をふんだんに採用しており、読んでいるだけで歴史ファンも思わず唸ってしまうほど知識が身につきます。

戦乱の時代に翻弄されて自分の無力さに涙する伊勢新九郎が、どのようにして北条早雲へと成長していくのか。
その先を見届けたくなる作品です。