テンポ感と情報量の多さが群を抜いている
圧倒的な画力とサブカル的な魅力を誇る沙村広明による作品。
全盛期ほどの巧緻な筆運びでは無くなっているが、作画力が非常に高く、ナチュラルかつダイナミックな画角構成やカメラワークも手伝って、するすると読みすすめることができ、極めて充実した没入感を体験することができる。
氏の他の作品に顕著に散見するエログロ要素がこの作品ではほとんど顔を出さず、またマニアックな楽屋オチや安易な時事ネタに走ることもせず、己のセンスと膨大な知識のみで突っ走っているのも、この作品の持っている疾走感につながっている。
とはいえ、いわゆる「守り」に入った作品かといえばむしろその逆で、ストーリーは二転三転、膨張と収縮を繰り返しながらスラップスティックに展開する。
終始ドタバタとした劇中で、一切のブレを見せない主人公鼓田ミナレの強さは異様なほどに輝いている。普通の人間であれば周囲から血迷い事と取られるようなとんでもない彼女の発言や行動も、「鼓田ミナレであれば仕方ない」あるいは「鼓田ミナレならではの真理をついた発言なのではないか」と読者に思わせてしまうだけの説得力は、その彼女のブレない強さに由来するものである。
正確にいうと彼女は常に恋においても仕事においても「ブレまくっている」が、365日24時間ブレまくり続けるということもまたひとつの「ブレない強さ」なのである。