ユーモラスなのに緻密で、くだらなくて面白い
この映画を観た感想として、「面白い」や「素晴らしい」や「頭が良い」と大抵の人は口にする。どれも間違いで、どれも正しいような感じがあり、それはこの作品における『テーマはなんなのか』問題に直結している。気の利いたシャレの後にロマンチックなダンスシーンがあり、その後に麻薬中毒で死にそうになったり、マフィアのボスを車で轢いてその後SMプレイを受けそうになったり、一般人を殺したり、特定のハンバーガーショップについて熱く語ったり。観る者によって感想がことごとく変わるのは当然で、もう語る必要もなくただ「良い」としか言えないはずだ。
個人的に思うのが、クエンティン・タランティーノの作品はどれも監督自身の知見の広さを表現しているようで、西部時代の黒人差別を題材にしたりナチスドイツのユダヤ弾圧を題材にしたり、時に遊星からの物体Xをオマージュした密室サスペンスを繰り広げたり、この男は止まる事を知らないのか? という思いである。
パルプ・フィクションは彼を象徴する作品となった。スプライトを飲んだ後に銃を撃つサミュエル・L・ジャクソンは痺れたし、監督自身が放つ「この家の前に黒人の死体預かりますって看板が出てたか?」「いいや」「なんで出てないか分かるか」「いや……」「それは、ここでは黒人の死体を預かってないからだ」というとてもくだらない掛け合いも笑えたし、ダイ・ハードで一躍抜きん出たブルース・ウィリスのコメディに振った演技も見事であったし、細かなところに配置される繊細なロマンスにも少しの感動を覚えた。物語として、グロテスク&コメディ&ロマンス&欲望&くだらなさを均一に並べて終わっていく。そのバランスの良さには、ただ「良い」として感嘆するしかないだろう。