だからでんぱ組.incが好きだ
正直なところ、わたしはアイドルにあまり明るくない。アイドルは歌って踊って笑顔をふりまく人たちのことだと思っていた。彼女たちに出会って、そのアイドルという生きざまを見て、この考えがいかにちっぽけで愚かなものだったかを思い知った。
一番始めに出会ったのは、大学の先輩のiPodのなかだった。その先輩は男で、スポーツをしている、いかついでかいやつだった。
煙草ふかしながらなに聴いてんのか尋ねた。
「でんぱっていうアイドルグループだよ。神曲ばっかで飽きないから、お前も聴いてみろよ」
いやいや、そんないかついツラでアイドルの? 神、なんて? 神曲? とにかくわたしは聴いてみた。テクノポップ調のサウンドがでかでかと耳に響く。チャカチャカとしたアップテンポなミュージックに乗ってくる可愛らしくも力強い声。アイドルの曲って、今こんなんなってんの?
思ってたのと違った衝撃で固まっていると、先輩は言った。
「YouTubeに動画あがってるから観てみなよ」
何はともあれ観た。なんだこれ。可愛くてウインクなんか飛ばしちゃう女の子たちが、めっちゃ激しい曲とか平気で踊って、わたしの方めがけて、まっすぐまっすぐ歌っている。そのとき観た(聴いた)曲は『サクラあっぱれーしょん』というのだが、アップテンポで歌いやすそうで耳に残る曲だった。その日だけで三十回はリピートしたのだが、毎回曲の後半にある歌詞でうるっときてしまう。「君の未来を明るく照らすなんてお茶の子サイサイさ」。彼女たちはその光り輝く笑顔で、踊りで、身体すべてでわたしの未来を照らしてくれた。なんとなく怠惰な日常、そこはかとない不安、そんなものを吹き飛ばしてくれた。
メンバーが入れ替わったり、少しライブの期間があいたり、いくつもいくつも彼女たち自身に不安になることが訪れても、わたしが応援する理由は変わらない。そこに居て活動してくれるから。彼女たちは「でんぱ組.inc」という、いびつで力強くて可愛くて美しい看板を背負って、ステージで歌ってくれているから。新曲が配信される度に驚かされ、行く先をいつまでも観ていたいと思わせてくれるアイドルだ。