スピード感のあるストーリー展開とバイオレンスに酔う『天使の涙』
香港ムービーというと、少し遠く感じるかもしれません。
人によってはカンフー映画を連想するかも知れません。
ハリウッド映画が元気な時代に、香港ムービーも独自の進化をしていました。
監督ウォン・カーウァイが瑞々しい感性で世界を驚かせた1995年、その実験的な手法は芸術的ですらありました。
彼は他にも意欲的な作品をたくさん製作しましたが、これほど私にインパクトを与えた作品はありません。
殺し屋の物語。二丁拳銃でマフィアの集会に乗り込み、躊躇なく殺す。
その躊躇いのない行動と、映像のスピード感。アクション映画のスローモーションに慣れた人たちには衝撃的に写るでしょう。
しかしバイオレンスシーンがこの映画の持ち味ではありません。
殺し屋と、その恋人。金城武演じる謎の少年、金髪の女。
それぞれの物語が展開、それぞれの思いが淡々と、でも心に響く演出で描かれ、それぞれの物語はやがてもつれ絡んでいきます。まるでタランティーノの『パルプフィクション』のように。
ワンカットごとに完結したショートスト―リーであり、全体でみると長編物語となる仕掛けも面白く、だれることなく突き抜けるようにラストまで飽きずにみることができるでしょう。
暴力シーンが苦手な方にはおすすめできませんが、よく作り込まれた物語が好きな方、映画に芸術性を求める方にはおすすめ出来る作品です。