福満しげゆきが送る、純粋に「ほのぼの」したファミリーエッセイ
福満しげゆきのエッセイ作品に漂う雰囲気といえば「卑屈」「ネガティブ」「自己愛」「鬱屈」「ひねくれ」…そんな暗~い単語ばかりが並びがち。でも今作は一味ちがう。「僕の小規模な失敗」で描かれたヒステリックな「まだ‘彼女’だった妻」時代、「僕の小規模な生活」や「うちの妻ってどうでしょう?」で描かれた「喧嘩してすぐ家出する妻」時代を乗り越えて、「良妻賢母になった妻」とのノロケがこれでもかと詰め込まれている。かわいい2人の子どもの愛らしいエピソードと相まって、「これって本当に福満しげゆきが描いたの?」と思うくらい。
私が好きなのは4巻その57。幼稚園の年長さんになった次男くんが、園で開催される音楽フェスタ開幕の声がけの練習をする回。年長さんだけど少し滑舌の悪い次男くんが、妻に指導されて挨拶の特訓をする。「これから にてんじゅうはち おんがくへすたを はじめまちゅ」と舌足らずに言っていた次男くんが、練習のすえ見事「これから にせんじゅうはち おんがくふぇすたを はじめます」と言えるようになる。その成果を見守る福満しげゆきの眼差しのなんとあたたかいことか…。この回には思わず私も涙を浮かべてしまった。
自己愛に満ち、人間関係に悩み、将来を悲観し、うまくいかない全てのことに嘆き悲しみ、己を憐れむ涙ばかりを流していた福満しげゆきと同じ人間とは思えない!福満しげゆき、すっかりお父さんになったんだね…と、読んでいるこっちまでジーンときてしまうエピソードだった。