劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜郭』レビュー
劇場版名探偵コナン『100万ドルの五稜郭』の舞台は北海道。タイトルの『五稜郭』も北海道にちなんでのタイトルとなっています。ちなみに五稜郭と書いて、「みちしるべ」と読みます。
コナン、平次、怪盗KID、そしてゲスト声優に大泉洋さんを迎えて、お宝争奪戦が繰り広げられます。
個人的には、争奪戦というより「大乱闘!ぐらいがちょうど良いのでは?」と思うほど、盛りだくさんな内容でした。
そもそも名探偵コナンのざっくりとしたあらすじは、以下の通りです。
・高校生探偵の工藤新一が、遊びに行った先で事件に巻き込まれる
・その場にいた「黒ずくめの組織」のメンバーの闇取引を見てしまう
・見ている時に後頭部を殴られてしまい、口封じの為に毒薬を飲まされる
・本来工藤新一が飲まされた毒薬は「体から毒物が検出されない代物」
・それなのに薬の副作用で幼児期まで体が縮んでしまい、更には生き延びている
・工藤新一が生きていると気づかれない為に、姿を小学生と偽って偽名を使い、黒ずくめの組織を探っている
・その偽名こそが「江戸川コナン」であり、名探偵コナンの世界の主人公である
基本的にコナンは自分の正体を明らかにしません。明らかにすると自分や周りの人間にも危害が加わるからです。
自分の正体を隠しながら、黒ずくめの組織を追っている。そんな「ミステリー」「推理」「アクション」「ラブコメ」が混じり合った、探偵漫画の金字塔とも言える作品が名探偵コナンなのです。
そんな工藤新一=江戸川コナンの正体を知る数少ない人物が、今作にも登場する服部平次と怪盗KID。服部平次は工藤新一と同じく高校生探偵で、怪盗KIDは宝石専門の泥棒です。
そんな個性豊かな登場人物が出てくる今回の劇場版。見どころは大きく分けて3つあります。
1.宝石しか狙わない怪盗KIDがなぜか劇中で刀を狙う理由
2.服部平次のラブの予感
3.怪盗KIDの秘密
これらは映画の予告動画で多数出ていますが、ここからが本編のレビューになります。
見どころ部分のレビューを簡潔にまとめたものが、以下になります。
1.刀を狙ったのは怪盗KIDなりの理由があり、そこには怪盗KIDなりの揺るぎない信念があってこその行動だった
2.確かにラブの「予感」は散りばめられていたが、思いは伝わらないままでお預け状態という安定の結果で終わってしまった
3.結構な秘密が公開された
次に筆者の感想です。
まず1について。
そもそも怪盗KIDはなぜ泥棒をしているのか。それは実の父親が関係してきます。
怪盗KIDの父親は世界的にも有名なマジシャンでした。ですが、あることをきっかけに命を落としてしまいます。息子である怪盗KIDは父親の死の真相を知りませんでしたが、ある日ひょんなことから自宅に隠し扉があることに気付きます。その隠し扉の向こうには、怪盗KIDの使っていたマントやシルクハット、ネクタイやモノクルがありました。
そう、怪盗KIDの父親はマジシャンでありながら初代怪盗KIDとして活動していたのです。
父親が初代怪盗KIDであったことに驚きを隠せずにいた怪盗KID。やがて自身も2代目怪盗KIDとして活動する決心をする出来事が起こります。それは「父親はある組織に殺された」というものでした。驚きを隠せない2代目怪盗KIDに、更なる真実が告げられました。父親を殺した組織は「不老不死」の力を得ようとしているということ。そしてその力に関係してくるものこそが宝石、すなわち「ビッグジュエル」だったのです。
世界中の宝石、「ビッグジュエル」を手に入れれば、父親の死の真相が掴めるかもしれない。そう思った怪盗KIDは、父親の跡を継いで2代目怪盗KIDとなるのです。
長くなりましたが、怪盗KIDがなぜ宝石しか狙わないかが分かっていただけたかと思います。では、なぜ今作では宝石ではなく刀を狙ったのでしょうか。
そもそも怪盗KIDは、父親の死の真相を見つけるために宝石を探しています。逆に、目当ての宝石ではなかった場合、本来の持ち主に返却しています。
このあたりに、ただの「泥棒」ではなく「怪盗」と名乗る所以があると筆者は考えています。
なので、今作でも刀を盗もうとしたわけではないのです。「正しい持ち主に返却したい」「どんな謎が隠されているか知りたい」そんな思いがあってこその行動だったのです。
個人的にはKIDが無意味に盗みをするとは思っていないので、劇中の行動は納得がいくものでした。
続いて2について。
服部平次のラブの予感。平次には同級生で幼馴染の遠山和葉という女の子がいます。本当にまどろっこしい関係なのですが、早い話両片思いです。
平次は新一がガールフレンドの毛利蘭に告白した場所が「ロンドンのビッグベン」というのをずっと根にもっています(笑)。
「告白するなら工藤(新一)よりも良い場所で」と、平次が関西人なのが関係しているのかずっと場所にこだわって見栄を張っているのです。
今作は北海道なので、平次は冒頭からずっと「告白絶景ポイント」を探しまくります。
そして「ここや!」と思う場所で、「ここや!」と思うタイミングで、「今や!」というベストタイミングで告白することはできたのですが、やはり相手の和葉ちゃんも一筋縄ではいかず、告白が聞けない状態にあったのです。
正直これは名探偵コナンにはよくある展開なので特にもやもやすることもありません。「ま、そうよね」と思う程度です。
劇場版で告白に成功されてもちょっと不満な部分もあるので、告白の続きは是非青山剛昌先生に単行本で描いていただきたいと思います。
最後に3について。
1で怪盗KIDが宝石を狙っているのは死んだ父親が関係していると記述しました。ですが、今作の本当のラストで実は怪盗KIDの父親は生きていることが判明します。何なら怪盗KIDの父親と工藤新一の父親は元々兄弟ということも明らかになります。ということは、怪盗KIDと工藤新一は従兄弟ということになるのです
この事実が、映画のラスト10秒程で、怒涛のラッシュで明かされます。
そもそも怪盗KIDと工藤新一は声と顔がそっくりです。なぜ似ているのかは長年明らかになっていませんでした。
怪盗KIDは盗みに入る時、警察官や刑事の顔に変装しています。その為にマスクや服装を用意し、男性から女性まで、声から性格まで完璧に模写します。
しかし、過去何度か工藤新一に化けたこともあるのですが、その際ほとんど変装をしていないのです。
一体何故なのか、それは長年謎のままになっていました。それが従兄弟というなら話も見方も変わってきます。
なぜ顔も声も似ているのか。なぜ2人ともあんなに頭がいいのか。
色々と点と点が繋がるラストシーンでした。
今作は探偵漫画の金字塔とも言える作品に相応しく、話として難しい内容が多く散りばめられていました。
その難しい中にメインキャラクターを2人登場させ、そのキャラクターの背景まで描き、さらに劇場版仕様のアクションをすると、必然的に内容がぎゅっと詰まったものになっていきます。
良くも悪くも、ぎゅうぎゅう詰めでした。
正直、平次は平次で、怪盗KIDは怪盗KIDで映画一作分は余裕で作れるので、わざわざ一緒の作品にしなくてもよかったのではと思います。
何より、入れ込めば入れ込むほど、ファンは楽しいですが毎年映画しか見ないという人を置いて行ってしまうことにもなります。
コナン映画は今年で27作目。劇場版だけ毎年見に行く人は一定数いるのです。
その人達と、原作ファンとの塩梅は難しいと思います。どの作品にも言えることだとは思いますが。
そうは言っても、原作の世界観をもちつつスケールアップした劇場版でした。
とても面白かったです。