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地味だが目が離せない骨太な作品
舞台は1920年代モンタナ州の牧場。いわゆる西部劇の世界。
牧場主の兄が、弟の結婚相手と連れ子に冷酷な仕打ちをするが次第に…。というあらすじからは想像していなかった展開とラストに肝を冷やす。
始終不穏な空気感で話が進む中、「何が起こるのだろう」と、気がつけば一時停止することなく見入ってしまった。だが中盤くらいから自分の思い違いに気づき、見方がガラリと変わる。
思わず最初から見返そうかと思ったがグッと我慢して、ゾクゾクとした緊張と静かな興奮にのまれながらラストへ。エンディングロールが終わるまで動けなかった。
牧場主フィルと連れ子ピーターの関係性の変化の描き方がとてもよかった。
ピーターと母ローズが来た当初は、あからさまに嫌悪を示しバカにしたような態度で男の威厳を振りかざしていたフィル。その顔色をうかがいながらビクビクと過ごす2人だったが、あることをきっかけにピーターは自信を持ち、逆にフィルがピーターの一挙一動に反応するようになってしまう(それはまるで恋する乙女のように)。
細い体躯に陶器のような真っ白な肌のピーターが、風呂に入らず汗と埃と獣の匂いにまみれた男たちの中をゆったりと歩く姿は、『ベニスに死す』の美少年タジオを彷彿とさせる素晴らしいものだった。
結末を知ってから見直したら、俳優陣の細かな目線の動きや表情のゆがみ、その巧みな演技と演出にしびれること間違いなしだろう。
牧場を舞台としているため、あまり色みもなく激しい展開もない一見地味な作品だが、数々の映画賞受賞も納得の見応えのある一作である。