色褪せない少女の心、歌い続けて半世紀
中学生の頃から活動を続ける息の長い歌手・シンガーソングライターの谷山浩子。
数多い提供曲の中では、映画『ゲド戦記』の挿入歌「テルーの唄」(歌:手嶌葵)が有名でしょうか。彼女自身が歌う自作の歌であれば、あの『みんなのうた』で知らずに聴いた方も多いかもしれません。
「まっくら森の歌」や「そっくりハウス」などご存じでは?実はここに挙げた2作、『みんなのうた』の子ども時代のトラウマソングとしても有名だったりします。
甘い声で伸びやかに歌われる彼女の歌は一見可愛らしい印象ですが、それだけではありません。どこか不思議な雰囲気の歌詞ゆえか、メロディーゆえか、はたまた彼女の自在な声の魔力のゆえか…。この世ならざる世界を垣間見るような、いつのまにかそこにとらわれてもう逃げられないような、そう思わせる歌なのです。
前述の「そっくりハウス」を見てみましょう。主人公は小さな女の子。真夜中目が覚めたら、部屋の真ん中に”小さなおうち”があります。
それは女の子の住んでいる家と何もかもそっくり。窓からのぞきこむと、小さなお父さんやお母さんまでいて、いつも通りの日常を送っています。子ども部屋には”わたしとおんなじパジャマをきて こちらにせを向けて何かをのぞいて”いる小さな女の子。彼女がのぞいているのは”ほんとに小さなまど”です。
”おうち”の中にも外にも今女の子がいるのと同じ”うち”があり、どの家も”小さな女の子”に、窓からのぞき込まれているという永遠に続く入れ子の世界。
女の子の立場で谷山浩子があどけなく歌うこの「そっくりハウス」。当時の子どもたちの多くが何とも言えない怖さを味わったに違いありません。
ここまでは「怖さ」を軸にご紹介しましたが、彼女の歌の魅力を語るにはそれだけでは足りません。猫好きにはたまらない「しっぽの気持ち」、アンデルセン童話の世界を下敷きにした「カイの迷宮」、暗く美しく幻想的な「王国」、ナンセンス文学のような「意味なしアリス」。かと思えば優しく明るい恋を歌う「カントリーガール」、さらに聴く人に「何を言っているかわからないよ…」と思わせる狂気の「まもるくん」などなど。彼女の世界の幅広さには驚くばかりです。
どの作品にも共通するのは、「好きなものは好き!」と主張する、ワガママで奔放なみずみずしい少女の心であるような気がします。人は選ぶかもしれませんが、とにかく、一聴の価値あり!です。