文化の街で人知れず生きる若い人の好ましさ
下北沢の古着屋で働いている荒川青(あらかわあお)は、恋人に浮気されたうえ、振られてしまいます。恋人への未練を残したまま過ごす青の元に、美大に通う女性監督から自主映画への出演依頼が舞い込みます。戸惑いながらも出演を決めた青に、新たな出会いと変化が訪れる物語です。
SNSでの「良かった」という口コミと、下北沢を舞台にした群像劇に興味を惹かれ、観てみました。
古着屋や古書店、飲み屋、レコード屋兼カフェなど、主人公青の生活を通して、下北沢の街の日常を疑似体験しているような感覚が味わえました。文化が好きな人たちが集まっているリアル感が、好ましく思えました。
現実味があった冴えない青の感じは、実際に存在している人を見ているような感覚になります。
コントのような冴えない場面がいくつかあり、思わず笑いがこぼれてしまいました。
ライブの鑑賞後、一緒にタバコを吸い始めた女性と話し始めるのかと思いきや、知り合いを見つけた女性が去って行く場面。
全くの素人なのに、朝ドラ俳優と勘違いされた共演者のおじいさんに話かけられますが、途中で人違いだとわかり、相手が去って行ってしまうところや、着替えに用意された衣装が着ている服とそっくりで、「意味があるのか」と首をかしげながら着替えるところなど。
ラスト近くの5人の登場人物が出会うおかしさの最たるシーンは、もうめちゃくちゃで良かったです。
この映画で決定的に心を掴まれたのは、恋人が連れてきた浮気相手と対面したあとの青の姿。彼の魅力が最大限に発揮されていた青の行動は、反則だと思いました。
終わりまで観て、大きな事件などが起きることもなく、ただただ青の日常を垣間見た印象でした。
作中に留守電の声でだけで登場する亡くなった古書店のかわなべさんのように、青は将来きっと街の暮らしの中でひっそりと亡くなっていくのでしょう。
何者でもない人に光を当てた、何てことないけれど好感が持てる映画でした。
ゆるっとした映画が観たい方にお勧めしたい1本です。