妖艶で感情的なボーカルにメロディアスで激しい曲が特徴の唯一無二のロックバンド
DIR EN GREYは1997年に活動を開始したロックバンドだ。バンド名はドイツ語で「銀貨」という意味の「dir」と、フランス語で「〜の」という意味の「en」、そして英語で「灰色」を意味する「grey」を複合させたもので直訳すると「灰色の銀貨」という意味になる。正直名前だけ聞くと所謂中二病的な痛さを感じてしまいそうだが、このバンドの曲を聞けばそのチープな第一印象は軽く吹っ飛ぶことだろう。
このバンドの曲で最初にインパクトを感じるのは、恐らくボーカルである「京」の非常に情緒的な歌唱力だろう。あえてナルシズム的と言い換えてもいい。しかしながらその自我を前面に押し出して、デスボイスやホイッスルボイスさえも駆使する技術と、感情がごちゃ混ぜになったボーカルは聞くものを虜にしてしまう。そしてその「京」の独自性の高いボーカルに負けない曲も、十二分にパワーを持ち合わせている。DIR EN GREYは基本的に作詞は「京」が担当していて、曲はメンバー全体で作るという形式が多い。「京」は歌唱だけでなく紡ぐ歌詞も非常に抽象的かつ独特で、退廃的な世界観のものが多い。しかしその独特のボーカルと歌詞の世界観にマッチするような曲を見事に作り上げているため、「京」の個性に頼っただけのワンマンバンドではないことが伺える。
そんなDIR EN GREYもデビュー初期ははっきり言って、数多あるビジュアル系バンドの二番煎じの域を脱してはいなかった。その個性の片鱗が表れたのは恐らく2002年に発売されたアルバム「鬼葬」からであろう。このアルバムはそれまでのいわゆるヴィジュアル系という印象の曲調から打って変わり、人の心の闇にえぐり込むような激しさと繊細さを同時に兼ね備えた曲がズラリとラインナップされていた。彼らの中でどんな変化があったのかは定かではない。ただ明確に表現の本質というものに向き合ったことだけは素人なりにわかる、そんなアルバムになっている。
DIR EN GREYはこれ以降ヴィジュアル系というイメージから徐々に脱却し、カルト的なファン層も目立つようになった。このアルバム以降は多少の音楽性の変化はあるが、人の本質的な部分にフォーカスするというスタンスは変わっていないように見受けられる。DIR EN GREYは素人がカットしたダイヤモンドのように歪に輝くバンドだ。しかしながらその歪さは病んでいる人間に深く染みていく。音楽という言葉には矛盾しているが、DIR EN GREYは日々疲れて病んでしまっている人にこそ聞いて欲しいバンドである。基本的に理解できない歌詞なのに何故か共感してしまう、ボーカルの超高音と供に鳴り響くメロディが自分の感情のダムを崩壊させる。DIR EN GREYだからこそ味わえる感覚をぜひ、私以外の人にも味わってもらえることを期待している。