Jeff Buckley / ジェフ・バックリィ

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Jeff Buckley / ジェフ・バックリィ
10

Jeff Buckley -天使の歌声-

90年代前半、一人の天才が音楽界にデビューした。彼の名はジェフ・バックリィ。ギタリスト兼シンガーソングライターである。
父も有名なミュージシャンであり、その父とは一度しか会ったことがない。そしてなんと言っても彼を語るうえで欠かせないキーワードは「歌声」である。水難事故により若くしてこの世を去ることになる彼だったが、たった一枚残したアルバムで聴けるその歌声と卓越したギターテクニックは聴く者の魂を震わせる。
間違いなく技術的な良し悪しを超えているし、個人的な好き嫌いという範疇すら凌駕しているような天上的な何かを感じさせる。そこには孤独な叫びがあり、愛への嘆きがあり、整然とした数学的な響きがある。アルバム『Grace』はボブ・ディランやジミー・ペイジ、ポール・マッカートニーなど名だたる重鎮に絶賛されたが、納得である。
彼の心には間違いなく「父」という存在の疑問というか、アイデンティティへの疑念というものがあった。たった一度会っただけの男の血を間違いなく受け継ぎ、与えられた才能を煌めかせて音楽のプロとしての道を歩んでいる自分への不思議。彼が歌う天上的な声と叫びは、自己同一性への普遍的な問いである。だからこそ誰の胸にも響くのだ。