実は時代を先取りしていた例の本…!!
きむらゆういちさんとあべ弘士さんがタッグを組み作成された「あらしのよるに」という絵本。
シリーズ物で、2005年に七作目の「まんげつのよるに」が、そしてさらに「ふぶきのあした」や派生作品が出版されました。
映画化もされ、一時期社会現象レベルに注目されたのでご存じの方が多いかもしれません。
と言っても、ずいぶん前に話題になった本なので内容を説明させて頂きますね。
嵐の夜に真っ暗なボロ屋で雨宿りをしていたヤギのメイと狼のガブは、お互いの姿が見えないまま意気投合し、「明日のお昼に合おう」という約束をします。
どんな姿をしているのか分からないから、「あらしのよるに」という合言葉も決めておきました。
気持ちよく晴れた空の下、お互いの姿を確認したメイとガブはびっくり!
メイから見れば天敵のオオカミが、ガブから見ればごちそうのヤギが、昨夜小屋の中で喋った気の合う誰かと決めた合言葉をちゃんと知っているのだから驚きますよね。
それでもガブとメイは仲良くなり、種を越えて友情を育むのです…。
ここで終わればとっても平和な物語ですが、そうは問屋が卸さない。
そして、ここからがすごく大事な内容です。メイとガブは種が違うので、所属しているコミュニティも違うわけです。
メイはヤギの群れの中で狼に怯えながら生活していて、ガブは狼の群れの中でヤギを最高のごちそうだと思いながら生活じていたわけです。
そうすると、メイが属する「ヤギコミュニティ」はメイがやっている事を自殺行為だとみなしますし、ガブが属する「狼コミュニティ」は「俺たちにもそのヤギを食わせろ」という風に考えます。
個々としてはお互いの事を認めて、尊重できるのに、所属しているコミュニティという大きなくくりになると、途端に見方が変わってしまうというのはよくある話で、この絵本はそれをとても分かりやすく表現してくれています。
もう一つ、特筆すべき点はメイの性別です。
実は、作中メイが自身の性別を明らかにする描写はほとんど出てきません(最初の方に少しだけありますが)。
一作目「あらしのよるに」では「オス」という設定だったのですが、自作からは「読者の想像に委ねる」という形になったようです。
つまり、この物語はメイとガブの男女のあるいは男同士の友情物語でも構わないし、男女あるいは男同士の恋愛でも構わないのです。
もちろん無性でも構わないでしょう。そうなると、ガブもボーイッシュな女の子かもしれませんね。
私たちの懐に決して土足で踏み込んでは来ませんが、こうした繊細な部分に「私たちの受け取り方」で寄り添ってくれる、とても優しい物語なのです。
ガブとメイが最後はどんな決断をくだしたのか。それはここではお伝えしませんが、とても素敵な結末です。
「ポリコレ、多様性というワードに疲れてしまったけれど、そういったことについて考えてみたい…!」という方にお勧めです。
決して押し付けがましくない、優しい物語なのです。
講談社さんから、「まんげつのよるに」までを収録している完全版が出ているので、そちらをぜひ読んでみてください!!