ようこそ映画音響の世界へ

bubuduke1077f6のレビュー・評価・感想

ようこそ映画音響の世界へ
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才能と魔法の輪音

映画音響。
よほどの映画通か実際に映画の世界で働く人でなければ関心ない地味な技術部門…。
否!
映画から聞こえる“音”のほとんどは、音響デザイナーが作っている。撮影現場で録られた音は1割にも満たないという。歩く靴音さえも。
あまりにも当たり前過ぎて“普通”。だから、非常に大事。
映画に絶対欠かせない!
撮影現場そのままの音だったら、ノイズや風の音入り交じり、役者の声もよく聞こえない。
ノイズや風の音を消し、役者の声をクリアにする。
ミュージカルだったら、心を揺さぶるような歌声をより効果的に。
映画音響が何より物を言うジャンルが、SFやアクション。誰だってSFの未知な音やアクションの爆発音や銃撃音やカーチェイス音に高揚。
映画音響ナシに映画は観れない!
自分は映画音響は非常に関心あるので、このドキュメンタリー映画を作ってくれて嬉しい。
存じ上げる音響デザイナーも多々。オスカーの同部門も毎年注目している。
ちなみにオスカーで区分けされている“録音”と“音響効果”。ざっくばらんに言うと、音響効果が“音を作る係”で、録音が“音の調整係”だとか(でも今年から、“録音賞”として一つに統合)。

前半は映画に“音”がついてからの、映画音響の歴史が語られていく。
映画ファンならだれもが知っている。映画に初めて“音”がついたのは、1927年の『ジャズ・シンガー』。
まさしくそれは、革命だったと言えよう。それまで映画は“観る”だけだったのに(映像に合わせてオーケストラ演奏したり、日本では活弁士が居たりしたが)、“喋った”のを“聴く”事が出来るようになったのだから。
当初は撮影や録音が大変だったというのを聞いた事がある。役者の台詞が上手く録音出来ない、衣装や小道具のガサガサ音が入る…などなど。
でも、そんな“トーキー映画”に観客は大盛り上がり。その一方、日本では活弁士の仕事が無くなったりも…。
後の映画音響の天才たちを驚かせたのは、1933年の『キング・コング』。この作品、怪獣映画や特撮技術だけではなく、音響でも古典だったとは…!
しかしその後、目立った映画音響作品は無く…。ほとんどが各スタジオにある音の使い回し。
昔も今も変わらない。スタジオ上層部が見てるのは華やかな部分だけ。縁の下の力持ちの事は気にも留めない。
が、勿論、見てる人は見てる。
オーソン・ウェルズ、アルフレッド・ヒッチコック、デヴィッド・リーン、スタンリー・キューブリック…。
映画に於ける“音”の重要性に強くこだわる。だからこそ、今更言うまでもない名作群が生まれたのだ。
そして70年代に入り、いよいよ映画音響が台頭し始める…。

3人の音響デザイナーにクローズアップ。
ウォルター・マーチ。
コッポラやルーカスと出会う。『地獄の黙示録』では当時画期的だった多重録音に挑戦(そのインスパイアは我が日本の作曲家、冨田勲!)。映画音響の可能性を切り拓いた。多くの音響デザイナーは言う。彼は現代の映画音響の父だ、と。
ベン・バート。
あの未知なる力に導かれるようにしてルーカスと出会い、壮大なスペース・オペラの世界へ。ウーキー族の声、ベイダーの呼吸音、ライトセイバー音、タイ・ファイターの飛行音、R2の“声”…全てを一から創造。今聞いてもゾクゾクワクワクするほどカッコいいんだもの、当時の人にとってはどれほどだった事か。『SW』は色んな意味で映画音響を変えた作品でもあった。
ゲーリー・ライドストローム。
CG時代の申し子。『トイ・ストーリー』などピクサー作品で名を馳せる。スピルバーグとも出会い、『ジュラシック・パーク』『プライベート・ライアン』を担当。キャメロンの信頼も厚く、『T2』や『タイタニック』も担当。90年以降屈指の映画音響の巨匠に。
新旧映画音響逸話も面白い。

後半は映画に於けるあらゆる“音”を分かり易く分析&解説。
映画の音は、3つで構成される。
台詞、効果音、音楽。
しかし、全てを盛り上げてもただうるさいだけ。
画面に合わせ、どの音を下げ、どの音を上げるか。そのバランス加減が難しい。
それも音響デザイナーの腕に掛かる。
マーチ、バート、ライドストロームの他にも現在第一線で活躍中の音響デザイナーたち。男性だけではなく、女性やグローバルなデザイナーも多い。
音響デザイナーの仕事ぶりや映画音響そのものについて語る名匠たち。ルーカスやスピルバーグの他にも、デヴィッド・リンチ、クリストファー・ノーラン、アルフォンソ・キュアロン…。
確かに幾人かの作品は、どれほど迫力ある音響に助けられている事か。

台詞、効果音、音楽…何も三位一体ではない。
音響デザイナーたちの創造を膨らます監督やスタッフ、キャストたちの才能。
監督やスタッフ、キャストたちも音響デザイナーたちが創造した音に創造力を膨らませる。

劇中でも称されていたが、映画音響は“才能の輪”。
映画に音がついてから、才能と魔法の音は、これからも永遠に観る者を魅了し続ける。