喜劇 愛妻物語

7jaki-1102のレビュー・評価・感想

喜劇 愛妻物語
8

うんざりと愛情たっぷり、一緒に居てやんなきゃ

『百円の恋』『嘘八百』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『アンダードッグ』などインディーズ作品を中心に活躍する脚本家、足立紳。
そんな同氏の自伝的小説を、監督第2作目として自ら映画化。
見て驚いた。今や売れっ子でこんな苦労してた時期あったんだ…じゃなく、こ、こんな恐妻家さんなんだ…((( ;゚Д゚)))

全く売れぬ脚本家、豪太。
妻チカとは結婚10年だが、倦怠期。長らくSEXもナシ。
それどころか顔を合わせれば罵倒され、邪険に扱われる毎日…。
脚本家としても夫としても父親としてもダメダメダメ…。
そんなある日、ようやく運が向いてきた。
ずっと温めているホラー脚本が会社に良好。
さらに、香川を舞台にした高速うどん打ちの女子高生の企画が舞い込む。
チカに運転手を頼みに頼み込んで、幼い娘アキも連れ、取材と夫婦仲を取り戻す旅行を兼ねていざ香川へ向かうのだが…。

これは喜劇?
それとも悲劇?
いやいや、シリアス劇かもしれないし、ある意味怖劇でもある。

端から珍道中。旅先でもチカの愚痴や不満、毒舌、罵倒、悪態は止まらない。
ウチは貧乏。ケチケチ旅行。チカの遣り繰りはある意味天才的! でも、それを巡ってまた喧嘩…。
関係を修復する筈が、やればやるほど…。嗚呼、こんな筈じゃ…。
さらに追い打ち。取材の場。当てが外れる。
暗雲立ち込める…。
チカはここまで運転して、疲労困憊。イライライライラ…。
運転故大好きなお酒も飲めず。イライライライライライライライラ…。
そして遂にプッツン!爆発!ブチ切れた!
まあ日頃から邪険にしているけど、今回ばかりは本当に愛想尽きた。容赦ない罵詈雑言。
普段はKOされる豪太だが、今回は彼も彼なりの不満をぶちまける。
夫婦両者の言いたい事を、腹の底から赤裸々と。

うだつ上がらず、それでいて人懐っこく、親近感あって憎めない。もう、濱田岳の十八番…いや、為の役!
でも、本作のVIPは水川あさみだろう。
その演技や女優としては時々賛否の声もあったりしたが、自分はなかなか好きな女優であった。『カメレオン』でのクールビューティーなヒロインも良かったし、濱田と共演した『今度は愛妻家』ではあっけらかんとした演技を見せ、『ミッドナイトスワン』での助演も非常に印象残った。今回はその才が最高に“爆発”した。
パワフルな熱演、存在感。
濱田との文字通りの名“夫婦漫才”なコミカルなやり取り。
何処か哀しげな面と、夫への愛情も滲ませる。
そんな両者の間に入る娘・アキ役の新津ちせの可愛らしさ、ちょっとのワガママさとおマセさも絶妙で、いいアクセントになっている。
喜劇であり、悲劇であり、シリアス劇であり、怖劇。それらをテンポよく軽やかに捌いた足立紳の演出も単なる脚本家に留まらせるのは惜しい。

これまで多くの映画やTVドラマやアニメで様々な夫婦を見てきたつもりだが、これほど分からない夫婦は居ない。
喧嘩、喧嘩、喧嘩…喧嘩に次ぐ喧嘩。
かと思えば、一緒にご飯を食べ、一緒に寝る。
旅先で遂にもうギブアップ。「別れて」「これ以上無理」「ダメになる」でも…。

どんな夫婦も当然、愛があって結婚した。
この夫婦の場合、愛の証しは、赤パンツ。
それは二人で一緒に買った。
今もそれを履いて寝ている。

そしてラストシーン。
豪太の手書きの脚本を、チカがワープロで打つ。
「読めない」「ヘタクソ」とまた愚痴を言いながら。

赤パンツとこの共同作業。
これがこの夫婦のカタチなんだろうなぁ…と感じた。
夫婦愛とか美しい言葉じゃなく、腐れ縁とかでもなく、正直、うんざり。でも、見捨て切れない。しょうがない、愛情たっぷり一緒に居てやんなきゃ。