若き日のジャズミュージシャンのハービー・ハンコックが映画音楽を担当したカウンターカルチャー期の異色映画
映画『欲望』は1967年に公開されたミステリースリラー映画で、監督はミケランジェロ・アントニオーニ、製作はカルロ・ポンティです。
この作品はアントニオーニにとって初めての英語での作品で、不意に殺人を写真に撮影したと思い込んでいるファッションカメラマン役にディヴィッド・ヘミングスを配しました。
共演は、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、サラ・マイルズ、ジョン・キャッスル、ジェイン・バーキン、ツァイ・チン、ピーター・バウエルス、ギリアン・ヒルズ、そして1960年代のモデルであるヴェルシュカ。
映画の筋書きはジュリオ・コルサルタルの短編『悪魔の涎』(1959年)に霊感を受けています。
脚本はアントニオーニとトニーノ・グエラが担当し、それに英国の脚本家エドワード・ボンドが会話部分を執筆。
撮影はカルロ・ディ・パルマです。
映画音楽の作曲はジャズピアニストのハービー・ハンコックで、作中ではそのほかにロックグループのヤードバーズの曲も使われています。
映画は1960年代のスウィンギングロンドンのサブカルチチャーを背景にしています。
本作は、それまでイタリアでネオリアリズモの名匠として活躍していたアントニオーニが一転して英語圏の映画の監督を引き受けた記念碑的な一作として位置付けることが可能です。
アントニオーニは当初音楽をあてないドライな作風でカウンターカルチャー期のロンドンのサブカルチャーを切り取るつもりだったらしいのですが、デビューしたてのハービー・ハンコックのライブ演奏を耳にして急遽、映画音楽にハービー・ハンコックを起用したというエピソードも今日に至るまで有名です。
というように、1960年代の文化・風俗に関心のあるコアなファンにはヨダレが出るくらいに凝ったつくりになっている、今となっては若干「知られざる名作」の趣きのある作品です。