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リアルな問題が切なくもすばらしく映っている
原作小説のタイトルとなる身分帳は、刑務所に服役した本人についての記録帳の事。本来、身分帳は開示されるものでもなければ、本人が持っているものでもない。実在した主人公は、服役中に刑務所で起こした事件の裁判の証拠として自分の身分帳を目にすることができ、それを自身のノートに書き写し、出所後ある作家に、その身分帳を送る。
映画は、刑務所を出所するところから始まる。恵まれない生い立ちの主人公が、少年時代から社会の裏側で生きざるをえなかったこと。「今度ばかりは堅気ぞ」その気持ちとは裏腹に、もう一人の自分が、なじみにくい社会から再び遠ざけようとする衝動。
出所者を受け入れる人たち、反社とよばれる人たちの今、自然災害による困窮、情報過多の世で人の本性と対峙する難しさといったこと、限られた一本の映画の中で今の日本が抱えるあらゆる問題のリアリティ、またその根っこの部分をふんだんに映す作品。観る者の心に入り込み、とても深い場所で完全にひっかかるものがある。今の時代が持つ切なさを伝えつつ、タイトルは「すばらしき世界」だと、この今の世を銘打つ。忘れているものは何か、立ち止まる勇気はあるか、自分は幸せなのか、考えさせられた映画です。ぜひ、劇場へ。