深く響く、ため息のようなセクシーな歌声
2018年にリリースされたアルバム『Sex & Cigarettes』で見せられたトニ・ブラクストンの進化には驚かされました。90年代の名曲で知られ、もはや大御所の域に入ってしまったかのように思っていましたが、まだまだ現行のR&Bシーンでイケる、華麗なアップデートを果たしていたのです。
93年のソロデビューアルバム『Toni Braxton』から既に完成された歌唱スタイルを披露し、インテリジェンスを感じさせる美貌を兼ね備えていたトニ・ブラクストン。ビターで深みのある声が低いところから響き、力強く愛を歌い上げてヒットしました。
次の96年のセカンドアルバム『Secret』でも勢いは健在。「Un-Break My Heart」はキャリアの中で最大のヒットシングルとなります。
2000年代に入ると、流行りのサウンドと相性があまり合わないのか、魅力が十分に引き出されず、セールスも少し落ち込みます。しかし、2001年のクリスマスアルバム『Snowflakes』は素晴らしい作品で、通常のアルバムと同じぐらい完成度も高く、最高に暖かいクリスマスソング集となりました。
それ以降なんとなく、もうR&Bの伝説となってしまったかのような印象だったので、あまり新作に期待はしていなかったのですが、その予想をいい意味で裏切られることに。『Sex & Cigarettes』収録の「Long As I Live」では、しっとりとした、ため息のようなセクシーな歌声を堪能できることはもちろん、これまでにないストレートな情熱に惹きつけられます。
ハートブレイクを歌ったバラードですが、その感情の盛り上がりが素晴らしく、何度も聴いてしまう中毒性が。90年代の頃の哀愁たっぷりの渋い曲調とは一味違う、トニ・ブラクストンの新しい魅力にやられました。
メアリー・J・ブライジやマライア・キャリーなどもそうですが、年齢もキャリアも重ね、貫禄さえ感じる女性アーティスト達が、過去の栄光に落ち着いてしまうことなく、自身の音楽を更新し続けていることは、非常に喜ばしいことだと思います。