【ハートカクテル】爽やかなるわたせせいぞうワールド
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『ハートカクテル』という作品をはじめ、心地よい「色」と「空気」を持った世界観を世に送り出すわたせせいぞう氏。いつまでも眺めていたいその世界。見守りたい世界がそこにあります。
わたせせいぞうプロフィール
1945年兵庫県出身。育ちは福岡県北九州市。漫画家、イラストレーター。
出典: ja.wikipedia.org
『ハートカクテル』
1983年から『モーニング』に連載された、わたせせいぞうの出世作。アニメ化もされた。
出典: ja.wikipedia.org
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セリフが手書き。そしてカラー。独特ですね。この人の絵は基本的に「人間の顔は記号化されたように簡略。他の部分に力を注いでいる」ように見えます。もちろん人間に手を抜いているというわけではなく、作風なわけですが。
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まるでアニメのような色彩。目が覚めるような色合いとはまさにこのこと。よくよく見たら芝生のグリーンがグラデーションですね。微妙な色の移り変わりをどうやってるんだ、と真剣に考えちゃいます。多分手塗り、とは思います。「買収された」というセリフをこんなにも爽やかに感じる日が来るとは。
その他一枚絵
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優しいですね。空気感、影、空。すべてにおいて温かく、そして優しい世界があります。画中のお二人さんに対し「リア充め」とはならず、「お幸せに」という気になれます。パンフレット、カバンに巻かれたスカーフなど、小道具も細かいです。
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この人の描く影もシワも何だか鋭角的なのに、痛々しい感じを与えない。むしろエッジがアクセントにもなっているんですよね。光源は常に柔らかい。そんな印象を与えます。
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メタリックなものの質感の表現もまた特徴的。建物に移りこんだ雲、車の質感がアニメ的で、オリジナリティーもある。夕刻だけれど寂しさはどこにもありません。
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簡略化がうまいんでしょうね、この人は。人間の顔がそうだからか、花も手前のものだけ書いて、あとは色だけで表現。しかし手抜き感ゼロ。爽やかさだけが残るという寸法です。そして細かい物語性や小道具もまたいい味を出しているという。車の色はメタリックシルバーか何かなんでしょうかね。最初は青かと思いましたけど、空が映っているのかも。うっとりします。
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舞台設定がたまに特殊だったりもします。でも戸惑うことはあっても「やっぱりいいなあ」と見とれるのも事実。で、どこなんですか。『トラベラーズ』というタイトルの絵のようですが、幻想絵?それでも爽やかなわたせワールド。
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手前の植物が簡略化されています。つまり、メインは奥。簡略化の名手です。しかもさわやかです。「何してんの」感はあるけれど、気持ちのいい風が吹いていること請け合いの一枚です。
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夏。でも暑苦しくない。むしろそれを吹き飛ばす爽快感が、わたせさんの絵にはあると思います。何でなんでしょうね。結構濃いめの色が使われているのに。
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