コメディだから、だけじゃない。『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズは何故面白い?

元はラジオドラマで始まったSF小説ですが、のっけから地球破壊、主人公の友人が実は宇宙人、耳に魚を入れてどんな宇宙語も自動翻訳…というぶっとびまくりのコメディ作品です。非常に面白く何度読んでも飽きない作品ですが、その魅力は一体どこから来るんでしょうか。

風刺と文体が笑いを誘う

地球の前に主人公アーサーの家が破壊されかかります。撤去の通知は大分前からありましたが、アーサーが気軽に言って見られる場所ではなかったため、異議申し立ても何もできない状態でした。結局撤去は強行されますが、今度は地球が「破壊」されるのです。やはり、地球人が気軽に言って見られない場所に通知がしてあったという言葉とともに。…これを初めとした風刺的な描写が、どこか冷めたような、ふざけたような(もちろん、知的な意味合いでのおふざけですが)文体で書かれているのです。それが妙におかしみを呼んで、ニヤニヤしてしまうのです。

今でいうタブレットのようなものが「銀河ヒッチハイクガイド」として登場。

ある事情で宇宙を放浪することになったアーサーがなるべく地球人に近い生命体のいる星を探すあたりは何だか泣けてくる…はずなんですが、笑えるんですよね。「ナウホワットヌマブタ」とか、「目的というものを持たない生命体(見た目は地球人そっくり)が描いた小説」とか。コントっぽい場面もあります。

本筋と関係なさそうでありそうな場面

いきなり不老不死になってしまった男、何度もアーサーに殺される男、ラチェットドライバーは実は生き物だった、ボールペンが不意にどこかへ行くのは生き物だからという説明、雨が嫌いで細かい名称をつけるトラック運転手…そんな「本筋と関係あるのか」と思ってしまうような寄り道的なエピソードもあります。それさえ何だか心地いいのです。

展開が予想できない

河出文庫出版のシリーズで全5巻。その間怒涛の展開の連続なんですが、地球が実は…だったり、地球で一番頭のいい生物は…だったりと「予想外」の一言。ともかくもいきなり宇宙の大統領(俗物)なんてのが出てきたり、言ってることが哲学的な宇宙の支配者(話し相手は「らちがあかん!」となってましたが)その他諸々。アーサーのその後の運命を正確に予想しきれる読者が、はたしているでしょうか?自分には無理でした。

鬱病ロボットマーヴィン

陰の主役は彼です。そういっても過言じゃありません。あまり登場場面は多くないんですが、とにかく「活躍」ぶりが強烈です。本人曰く「惑星規模の頭脳」を持っているようですが、人間により近いメンタリティを求めた結果、何でか鬱病状態に。頭がよ過ぎるため言いつけられる「仕事」が至極つまらないと文句を言うし、彼の「人生観」を聞いたら機械でさえ悲観的になって「自殺」するほどです。

彼を救えるカウンセラーはいるのか…。

小難しい計算や学問に関する考察を億単位で瞬時に終えてしまう頭脳があったら、確かに鬱っぽくなるのもしょうがないでしょうね。やたら明るくても困りますけども。

まとめ・深みと笑い

笑いを誘発する文体や展開の中に、ところどころ「深み」が感じられます。笑いはあくまでテイスト、もしくは重くなりすぎないための配慮。単なるコメディ、笑わせるだけの物語でないことはラストまで行かずとも読めば分かるはず。ラストでは一抹の寂しさを感じますが、あなたは悲観的な気持ちになるか否か…?

えどまち
えどまち
@edono78

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