劇団MOTHERのシュール演劇『プラシーボデパート』
まだVHSの時代。その作品は生まれました。奇妙なデパートにやってきたカップルの物語。ストーリーを簡単に記すとそうなりますが、実験的でシュールでした。
劇団MOTHER
升毅主宰で1991年に創設された劇団兼「売名行為」。2002年解散。
出典: ja.wikipedia.org
『プラシーボデパート』
奇妙と言っても外観(登場しませんけど)は普通。店員や「売っているもの」が普通じゃないんです。内容で言えば喜劇の部類で、随所に笑いが散りばめられています。しかし単なる喜劇じゃないし、実は結構深いんじゃないかと思わせる不思議な物語です。
世界観
そこはデパートという閉鎖的な場所。客以外の従業員は皆就業規則にのっとって仕事をしているわけですが、その「就業規則」、ならびに売っているものが独特なんです。屋上が「動物園」になっていて「透明な巨大ミミズ」「やたら大きすぎて足しか載せられない生き物」なんてのを飼育していたり、エレベーターガールが3人もいてわけの分からないことをまくし立てたり。(しかも階が上がるごとに年まで取っていました)
喧嘩売り場
ヤクザや不良のような店員がやたら喧嘩腰の「喧嘩売り場」なんてのが登場したりします。需要あるんでしょうか…。
スポーツ用品店での一幕
雇用条件は「名前」です。スポーツ用品店で店員同士が話をしているわけですが、「サカイさんは引っ越した」と言っていたり、「名前と配属先、状況が業者を連想させる」というお遊びめいた作りになっていました。(引っ越し業者のサカイなど)で、スポーツ用品店はスポーツ関連のブランドに関する名前でないとダメ、といった雰囲気。「有望そうな女子高生」の名前を聞き、「あのスポーツブランドだ!すぐ履歴書持ってきなさい!」
何かの皮肉なんでしょうか…?ちなみに彼女が有望視されたのは名前を聞く前。やたら長いセリフと動きを完璧に覚えていたからでした。そっちで採用決めようよ…。
観客の扱い
観客の扱いも何だか変わっていたように思います。舞台を囲むように階段状の席が用意されているんですが、役者の皆さんが観客をいじるいじる。服売り場では「マネキン」と称し、客役のカップルに服を勧めるシーン。
店員:「このマネキンの来てる服はいかがですか?」
客:「うーん、ダサい」
店員:「(慌てて)何てこと言うの!」
「動物園」のある「屋上」では飼育員がバケツに入ったお菓子を配り歩いていました。「単なる観客」だけでなく、一小道具、もしくは役の一部のように扱っていたわけです。無論、それは飽くまでサービス精神から来る遊び心。困惑しつつも楽しめたんじゃないでしょうか。
そして、終劇へ向かう
何だかんだで買い物を楽しんでいたカップルですが、「帰りたいのに出口がない」ことに気づきます。支配人「出口さん」の意味深長なセリフと、それを聞いたとたんに態度を変える店員たち。深い何かを包括したようなモヤモヤで物語は終わるのでした…。散々「おふざけ」しただけに、最後のシリアス口調が効果的で、デパート同様に閉鎖的な「舞台」から、そもそもこの物語からこちらまで抜け出せなくなるような錯覚に陥ります。