泣ける小説 石田衣良のおススメ本
石田衣良といえば2010年の土曜ドラマ『美丘₋君がいた日々』(吉高由里子・林遣都主演 福山雅治『蛍』主題歌)が記憶に新しい。
この『美丘』は胸が締め付けられるほど美しく激しい恋の物語だったが、他の作品でもこのような話や泣けるストーリーがある。
石田衣良の泣ける話が詰まった短編小説を2冊紹介する。
『約束』
「大切なものを喪ってもいつか人生に還る時が来る」
これがテーマになった7つの物語から成る短編集である。
以下、簡単なあらすじを掲載する。
・「約束」
親友を突然失った男の子の物語。
親友を失ったショックから異常行動や自傷行為に走り、自殺未遂をしてしまう。
絶望の淵にいた彼を救ったのは死んだはずの親友だった。
・「青いエグジット」
車いすの息子とその家族の物語。
わがままな息子が「ダイビングをやりたい」と言いだす。
スクールに通い、初めてのダイビングで海の底から貝殻を拾ってくる。
それを両親に手渡した後、自分が車いすになったのは「事故」ではなく「自殺」の結果だったことを告げる。
彼の「青への出口」(ブルー・エグジット)とは何なのだろうか。
・「天国のベル」
突発性難聴になった息子を抱えるシングルマザーの物語。
心療内科に通っても結果は芳しくない。
そんな時、同じく心療内科に通っている親子に出会う。
その親子と行く旅行先で奇跡が起こる。
息子の耳を治したのは不倫相手とのデートで死別した夫だった。
・「冬のライダー」
ヘタクソなライダーとコーチをする女性の物語。
小学生に負けるバイク乗りを見かねてコーチを申し出た女性。
二人はだんだん親しくなっていく。
彼女は亡くなった有名レーサーの妻だった。
・「夕日へ続く道」
学校に行かない少年と廃品回収をしている老人の物語。
少年は老人を手伝うようになり親しくなっていく。
奇妙な関係が続くある日、老人が倒れた。
入院している老人のもとに彼の両親がやってきて「息子に手伝いをさせるのはやめてほしい」と申し出る。
その言葉に腹を立てた少年に老人は『ある賭け』を提案する。
・「ひとり桜」
カメラマンの夫を失った女性の物語。
プロのカメラマンと出会い、写真を撮ってもらい一夜を過ごす。
そのことがキッカケで彼女の凍っていた時間は再び流れ出す。
・「ハートストーン」
脳腫瘍が見つかった息子とその家族の物語。
脳腫瘍が見つかり入院生活を余儀なくされる息子と何とか希望を見出そうとする両親。
息子の手術の日、母親の実の父が亡くなる。
父が「孫の手術が成功しますように」と亡くなる瞬間まで握りしめていたハートの石はまだ温かかった。
『再生』
人々の絶望と再生を鮮やかに切り取った10の短編集である。
簡単なあらすじを掲載する。
・「再生」
妻を自殺で失ったシングルファーザーの物語。
ある日、妻の親友が訪ねて来て「妻に頼まれた」とあるメッセージを伝えに来る。
・「ガラスの目」
息子の障害から目を背け妻と子を捨てるようにして逃げた夫の物語。
息子と妻を捨て、仕事に没頭するが妻子のことが片隅にちらつく。
妻子に償いをしようと自殺を試みるが失敗した。
その足で妻子の住むマンションに向かう。
・「流れる」
同棲していた彼氏に浮気をされ別れを切り出された女性の物語。
女性はショックで食べられなくなり眠れなくなる。しかし、彼氏は気にかける様子もない。
同僚と合コンに行きすっきりした女性はささやかな復讐をして新たに動き出す。
・「東京地理試験」
定年退職で職をなくし、タクシー運転手になろうとする男とその妻の物語。
タクシー運転手を目指すも、どうしても地理試験に合格せずに悔しい思いを重ねていた。
しかし、8回目の試験でようやく合格することが出来た。
その合格を一番喜んだのは彼の妻であった。
・「ミツバチの羽音」
データ入力の派遣をする女性の物語。
彼女にはどうしても苦手な同僚がいた。
ある日、その同僚の息子が障害を持っていることを知る。
わけのわからない怒りを感じながらその同僚の仕事を手伝う。
・「ツルバラの門」
障害を持っている息子とその母親の物語。
息子の通うことになった幼稚園に乱暴者の園児がいる。
息子が言うにはその園児も息子と同じ障害を持っているらしい。
しかし、トラブルを避けるために息子に口止めをする。
あることがきっかけで息子がその園児と園児の母親がいる前で言ってしまう。
・「仕事始め」
仕事人間だった男が心身の体調を崩し自分に向き合う物語。
仕事人間だった男が自律神経失調症になり、休職する。
何度も悩み、絶望しながらも前に進もうとする。
・「四月の送別会」
新卒で入社した同僚が1ヶ月で退職する物語。
新卒で会社に入ったもののなんとなく違和感があり、愚痴をこぼす。
同僚に「こんなに早く辞めるな」と言われ気持ちを新たにする。
しかし、なんと自分を励ましてくれたはずの同僚が退職するという。
前に進もうとする同僚に祝杯をあげる。
・「海に立つ人」
夫を亡くし、その骨を散骨する女性の物語。
離婚し、死別した元夫の骨をあちこちに散骨している女性に出会う。
この散骨の旅もここ、沖縄で終わりを迎えるつもりだったという。
しかし、元夫が消えてしまう気がして残りの骨は東京に持って帰るのだと告げる。
・「銀のデート」
若年性アルツハイマー病になった夫とその妻の物語。
いままで出来ていたことが出来なくなる「若年性アルツハイマー」と診断され3年が経過した。
その日の夫はやけに浮かれている。
聞くと「デートだ」と言った。
その日付・時間・待ち合わせ場所に思い当たることがあった妻は夫のあとをつけて行く。
夫が待っていたのは「妻」だった。
・「火を熾す」
公園でボランティアをしている老人の物語。
老人はいつものように子供たちに教えながら焚き火をし、焼き芋などを作っている。
そこに、一人の青年と一人の少年が加わる。
青年は休職中、少年は不登校だった。
老人は焚き火を囲みながら青年たちと焼き芋を食べ、ステーキサンドを振る舞う。
ただ、それだけのことが青年たちに前に進む力を与えた。
・「出発」
すれ違っていた息子と父親の物語。
厳格な父親の元に栄養失調になった息子が5年ぶりに帰ってきた。
父親は息子を「負け犬」と罵る。
しかし、父親がリストラに遭う。父親もまた「負け犬」になった。
父と子は5年ぶりにゆっくり話す。
息子のやりたいことを聞いて「やってみろ」と背中を押した父親はもう厳格な父親ではなかった。