国内外のオススメ短編小説

年末年始だろうとなんだろうと、ネットやゲームは楽しめる!というそこのアナタ。ちょっと立ち止まって、読書なんかいかがでしょう。「秋に散々読んだから」という方にもそうでない方にも、そう長くない、むしろ短編小説をご紹介。

『ガリバルディ橋の釣り人』 著:ロダーリ(光文社『猫と共に去りぬ』収録)

魚を釣りたいがためにタイムマシンまで使っちゃう人のお話です。別のポイント探せと言いたくなりますが、もう意地なんでしょうね。この本は他にもかわいいんだか深いんだか、といった作品が目白押しです。

『大きな翼のある、ひどく年取った男』 著:ガルシア=マルケス(ちくま文庫『エレンディラ』収録)

ある日突然、背中に翼の生えた「天使」が現れる、という話。なんですが、空から荘厳な光とともに降臨、という話じゃありません。あと彼に関連するであろう奇跡も起きたんだか起きてないんだか分かりません。そもそも「天使」かどうかも分かりません。翼のついた、わけのわからない言葉を話す「おじーさん」が近所の人に珍しがられる、といった感じのお話です。

『無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語』(同上)

長いタイトルですが、内容はおおむねこのタイトル通りです。出だし部分の屋敷の描写といい、夢遊病的な体質といい、冷めたような表現を使っている割にどこか神秘的な印象です。エレンディラ、聞き分けよ過ぎというか、もう少しお婆さんに歯向かってもいいんだよ、と言いたくなります。

『小さな暴君』 著:ブッツァーティ(光文社『神を見た犬』収録)

祖父母両親、二人の家政婦に甘やかされたワガママというか憎たらしい小僧、ジョルジョが主人公…なんですが、大人たちが争って彼のご機嫌をとるのにはある理由が存在していました。「下らない、しかりつけろ」というのは簡単ですが、ある意味共感できる理由でもあるんですよね…そして作中に出てくる本物そっくりのミルク運搬トラックのおもちゃ。これが作中において重要なアイテムとなるのでした…おじいちゃん…。

『七階』(同上)

とある病気で入院した一人の男性。そこは彼の病気を専門に扱っており、スタッフも設備も充実。ただ変わった規則がありました。それ即ち、「病状が悪化すると下の階に移される」。七階建て病院の最上階に入院した主人公は隣室の男性からそのことを聞き、階下の患者たちに優越感を抱く…不謹慎です、この人。諸事情でどんどん下に移されていくのですが、その度にごねたり「俺はそんなに悪くない!」などと興奮したり。でも確かにそんな規則があることを知って「移ってください」なんて言われたら勘ぐっちゃいますよね。いくら一時的な措置だ、下の方がいい医者いるよなどと言われても。

この本には他にも、表題作である『神を見た犬』や『グランドホテルの廊下』なども収録されています。この二作とも、人間心理を巧みに描いています。ことに後者、コントみたいです。

『トグ兄ちゃん』 著:清水義範(ちくま文庫『時間戦下り列車』収録)

清水義範さんという方は、パスティーシュなる技法(文体を真似すること)で小説等を書かれる作家さんです。が、ここで挙げるのは「普通の小説」。

インドを思わせる架空の国が舞台です。9歳かそこらの子供でも働かなければならない貧しい一家の長女、ナルチャの心情が語られますが、泥臭さや血なまぐさい部分はあっても、汚さはありません。タイトルにもあっているトグ兄ちゃんは、ナルチャの兄です。11歳にして「貧乏と金持の違い」について説き、父を「運がない」と語り、「施しの金」を拒む。青臭いとみるか高潔ととるか。何せこの年で工場で働いてますからね。ナルチャも十分強い子ですが、トグ兄ちゃんと、妹のピブロの強さにもまた感心します。

『ホラ吹き爺さん』(同上)

個人経営のレストラン。昼は会社員やOLなどが、夜は恋人や家族連れなどが訪れる店の常連客岩井徳造と、マスターのやり取りが主です。が、彼のために出される「一品料理」がまた食欲をそそるんです。取り立ててその料理の描写がないにもかかわらず、です。ですがメインは、岩井さんがマスターに話す「ホラ話」です。

ちくま文庫出版で全六巻、「清水義範のパスティーシュ小説集」が出ていますが、上記のようなごくごく普通の小説も載っています。中には変わったものとして、注釈だけで進む『注釈物語』や、ある言語学者が著書の冒頭に書いた「前書き」を面白おかしく茶化した『序文』などなど、「よく思いついたなあ」というものが満載です。殊に『序文』。地位を得るごとに内容が傲慢になっていく様、関係者の悪口を言う様…読んで損はないです。

以上、短編小説集でした。

えどまち
えどまち
@edono78

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