『ぼくのじしんえにっき』阪神大震災前に書かれた一作

阪神大震災から20年。そして来年で東日本大震災から5年になります。思い出したくない、だけど忘れてはいけない「震災」ですが、阪神大震災よりも前にこの作品は書かれました。(ネタバレあり)

概要

おばあちゃんは缶詰をため込んでいました。

和幸という少年の日記、という形式で書かれます。祖母、両親、猫と同居している彼ですが、祖母と母の価値観の差から来るいさかい(嫁姑バトルなんて程には感じません)や、祖母の「お年寄り」特有の考えなど。結構平和な感じで進んでいきます。そして、大地震が訪れる…。

主人公「和幸」

ごく普通の小学生です。親や大人が言ったことをそのまま使ったりする半面、「狂犬病」について一考します。

「ぜいたく」

人参贅沢シリーズはいかが?

作中の冒頭部分でよく「ぜいたく」という言葉が使われていました。祖母の言った言葉を主人公が独自に解釈(嫌いなにんじんを大量に食べさせられることを、強制的な「ぜいたく」と表現)、使用しているのも面白いところ。

ショッキングなシーンの連続

オノマトペで表現される地震の規模を始め、よく日記なんか書いていられると思うほど(書くことで逆に落ち着く、という話もありますが)、小学生でなくとも重い展開が続きます。街が壊滅状態になり、父親が帰ってきたのは夜遅く。それまでと同じ生活はできず、青空市場のようなスーパーも品不足。そして、給水車が来るのですが、順番を巡り喧嘩。この時のイラストもショッキングなものでした。白目をむいて殴り合う大人たちと、母親と抱き合いながらそれを盗み見るように観察する主人公…。水をもらえず泣いている妊婦や、子供にかみついた犬をなぐり殺す大人など、非常時の混乱が克明に描かれるのでした。

とし子ちゃん

「何」がこんなものをつけさせるにいたったのか?

少し離れた地区に住んでいる、幼い女の子です。ヒロインというほどではありませんが、彼女を巡るシーンもまた、今思えば他人ごとではないのです。はっきりとした理由は書かれていませんが、彼女の住む区域が、突如鉄条網により「隔離」。防毒マスクをつけた自衛隊員が、その網をくぐろうとする主人公を止めるのです。隊員の目を盗んで水や食料を届けに行きますが、家人からは「もう来てはいけない」と言われます。

見出す「希望」

それでも生きなくてはならない。

しかし、ほっとするシーンもありました。先のとし子ちゃんに水を飲ませてあげるシーン、自宅の二階から夜空を眺め、祖母のことわざ「情けは人のためならず」を思い出し、実感するシーン。上級生たちとの喧嘩もありましたが、そのうちの一人が主人公の根性を認め、互いの傷を見せあい笑いあうシーンなど。殴り合い暴動を起こす大人と対比するように、主人公も含めた子供のたくましさが描かれていました。

飽くまで「日記」

少年は筆を執り、描き続けます。彼が強いから?そうでしょうか。地震の日、彼は泣きましたし、喧嘩はこりごりとも言っていました。紡がれるのは、一人の少年の感じ取ったこと、見たこと、嘘偽りない気持ち。たったの一行で済まされる日もありましたし、祖母から教えられた宗教観念に基づいた夢を見る日もありました。文体はあくまで平素で、どこかそっけない。しかし胸に迫る。感じたことをそのまま日記に書いているためでしょう、色々な感情を込めて。最後に書かれる彼の決意を読むに当たり、「希望」「絶望」その他もろもろの言葉で飾って何になる。そんな気にすらさせます。

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