原爆の悲劇をさらりと書いた作品
戦後70年が経ちました。かつてあった悲劇を覚えている人も少なくなっています。太平洋戦争時に使用された初の原子爆弾について描かれた作品群。一見するとさらりと書かれていますが、それ故に重く感じる部分もあります。
『こっちむいて!みい子!』(2巻)より「みい子の願い…」
『ちゃお』で連載されていた『こっちむいて!みい子!』という漫画から。もともとこの漫画は、「絵柄は低学年向け、内容は(時々)高学年向け」といった感じです。少なくとも、そう感じていた時期がありました。低学年には早すぎるキーワード、出産についての詳細について語るなど、意外と侮りがたい漫画です。
そんな『みい子』の中に、原爆についてのエピソードがありました。いとこの女の子と長崎観光に行った際のこと。現代っ子のみい子は真夏の九州の熱波に参って、のどが渇いたと不平を言います。しかし、そんな中平和公園に向かい、「体験談」の刻まれた碑文を読み、少し引きます。そこがどんな場所なのか、何故そのようなものがあるのか、よく理解していないようです。もともと地元の子じゃありませんしね。そして、「片足鳥居」を見つけるのでした。
「何でこうなったんだ?」気が付くと、いとこの姿はなく、微妙に「古めかしい格好」をした4人の少女が。警戒されつつも一緒に遊ぼうとなった時、みい子は異変に気づきます。「鳥居が壊れていない」。不思議に思った瞬間、まぶしい光と熱線、爆風が少女たちに、鳥居に襲いかかり…恐らくほぼ一瞬の間に見たのは、崩れる鳥居。そして、炎の中に見える、4つの人影。
直接目にした被害は鳥居と4人の少女。そして間接的被害として碑文の体験者の言葉がよみがえり…。「かつてあった悲劇」を知ったみい子は自分にできるせめてものことをします。それは非常に些細なこと。でも、気持ちを込めての行為。さらりと書かれた「願い」が、切実に、重くのしかかります。
『父と暮らせば』
国語の教科書に載っていました。23歳になる美津江が、雷に怯えて家に戻ってくるところから始まるのですが…優しくもユーモア精神ある父の正体、雷を恐れる理由が実にさらり描かれているのです。そして、原爆瓦をはじめそうした「資料」を集める男性に想いを寄せながら、勇気が出せないでいる。友人が死んで、父のことも「見捨てて」逃げた自分に誰かと幸せになる権利なんかない。そういう美津江に、幽霊となった父は厳しく言うのです。「生きて幸せになるんだ」と。そもそも、父はずっと逃げろと言っていました。最後の父のセリフ、娘のセリフが希望を感じさせる一作です。そして、じゃこ味噌だのしょうゆ飯だのが食べたくなる…。
時を刻む「原爆時計」が訴えること
今なお核を保有している国は数多くあります。広島には投下時から現在までの時間を記した時計が設置。長崎の資料館では時計の音が「違う世界」の入り口のように鳴り響いていました。でも、「違う世界」何かではなく、70年前起きた「現実」なのです。向こうが悪い、先に攻撃したのはこっちだなどという前に、犠牲となった方への冥福を祈るのが先ではないでしょうか。生きている人々にできるのは、祈ることだけではないはずです。そう感じさせる作品群でした。