童心にかえられるクリスマス絵本 オールズバーグの世界観を堪能しよう
絵本作家のC・V・オールズバーグは、日本人が憧れを抱くようなアメリカの子どもたちや家庭の一場面を描くことに長けています。『急行「北極号」』もその一冊で、おもわず膝を打ってしまう、「そう、このかんじ」とつぶやいてしまう絵が何度も登場します。有名作家・村上春樹が翻訳を手がけたことも、この絵本が注目される理由の一つでしょう。自分で読むのはもちろん、大切な人に読んであげたくなるクリスマスファンタジーです。
パステル画で描かれているのは アメリカの子どもと冬の街並み
表紙は粉雪が舞う急行「北極号」の夜の姿。右側に目を移すと、煙突がついていたり、壁の色が暖色系であったりする家々が見えます。「アメリカの風景ってこうなのかも…」と、期待度が高まる一枚です。
ページをめくると、さらに細かな描写が読者の目を楽しませてくれます。列車のなかで給仕をするちょっと怪しげなコック、山と丘を越えてたどり着いた北極点の街並み、主人公の少年がプレゼントをあける場面―
どれもこれも映画のワンシーンのようで、日本人からすると頭のなかで思い描いていた「アメリカだったら、こうだろうな」という光景が、とても幻想的に表現されていてうっとりします。
ストーリーは絵のみで十分に味わえるのですが、文章もしっかりと堪能してください。日本を代表する作家・村上春樹の翻訳は、絵本という舞台でも期待を裏切りません。
大人のあなたも心をときめかす たくさんの言葉のマジック!
子どもたちはみんな、パジャマかナイトガウンというかっこうだった。ぼくらはみんなでクリスマス・キャロルを歌ったり、雪のように真っ白なヌガーがまん中にはいったキャンディーを食べたりした。チョコレート・バーを溶かしたみたいに、とろりと濃くて香ばしいココアも飲んだ。
北極号に乗っている子どもたちの格好とお菓子のことが書かれた部分を引用しました。
ナイトガウンにクリスマス・キャロル、ヌガーにチョコレート・バー。たった数行のなかに心躍る言葉がたくさん出てきます。ちなみに、ヌガーとは、ナッツやドライフルーツがはいったソフトキャンディーのことです。
児童向けの作品のため、子どもたちが理解できるような易しい言葉をえらんだり、難しい漢字にはルビをふったりしているのですが、「この単語、なんだろう?」と疑問をもたせて、興味を引きつける部分も残しています。村上春樹なりの子どもへのアプローチなのかもしれません。
モーリス・センダック以来の才能ある作家として、度々取り上げられるオールズバーグ。「絵本は子どもたちのもの」と決めつけず、ぜひ手にとってみてください。読後には、サンタクロースを心待ちにしていた少年・少女時代へ戻れるかもしれません。
急行「北極号」
絵と文:クリス・ヴァン・オールズバーグ
訳:村上春樹
発行所:あすなろ書房
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